68「神隠し」【挿絵あり】
個人的な話だが、私は生まれた時は未熟児で
専用の新生児施設のお世話になった。
その施設の看護婦(今は看護師)から、
母が聞いた話。
ある時、比較的元気な新生児の部屋から、
子供が1人いなくなった。
しかし、ベッドは高い柵で囲まれている。
そもそも1人でどこかへ行けるはずは無い。
「最初に思い浮かんだのは“誘拐”です。
でも、未熟児用の施設なので、医者とスタッフは
24時間待機体制ですから」
良くも悪くも人の出入りが激しいので、関係者の目を
盗んでというのは絶対不可能。
施設内を全チェックし、それでも見つからなければ
警察に……という話になった時、彼女は室内の異常に
気付いた。
「同じ部屋の……他のベッドに寝ていた新生児が
みんな起きてハイハイして、柵に頭を押し付けて
いたんです」
その頭を押し付ける方向は皆一箇所を指していた。
そこには、緊急用の搬送ベッドがある。
調べてみると、そのベッドと壁の間に行方不明になった
新生児が眠っていた。
「他の赤ちゃんたちがいる場所を知っていたのも
不思議なんですけど……
結局、誰が赤ちゃんをベッドの裏に? というのも
わからずじまいでした」
今は場所を移転しているらしいが、その施設は
現存している。





