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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
65/300

65「一本道」【挿絵あり】


私の知り合いのお寺、そこに来た信者さんの話。


彼は自転車に乗って横断歩道を渡っていた。

もちろん青信号である。

と、その時突然かなりのスピードを出した自転車が

目の前を横切った。

運転していたのは老人である。

車道側から青信号の横断歩道を一気に突っ切ろうと

したらしい。




「危ないっ!?」




目の前を老人の乗った自転車が横切り、とっさに

ハンドルを90度回転させた彼は、代償として

顔面からアスファルトの地面に突っ込んだ。


事故の原因となった老人は一時こちらを振り返ったが、

状況を察知してか一目散に車道に沿ってそのまま

逃げてしまった。


救急車が呼ばれ、意識がはっきりしていた彼は

自らの足で車両へと乗り込んだ。


警察も現場検証に来ていたが、




「人を避けて事故を起こした」




と誰かが証言してくれていたにも関わらず、




「でもですねえ、それが転倒の原因とは

 限りませんし……」




と面倒くさそうに対応しているのが

耳に入ってきたという。


病院に着くと、鼻の頭と左側が裂けており、

縫う事になった。

左手で多少は受身を取ったせいか、後は右足が少し

擦り切れただけで、治療後そのまま自宅へ帰る事を

許可されたという。


血が流れたので、とにかく鉄分補給のために帰宅途中に、

そのテの栄養ドリンクを何本か購入した。

家に着くと、すぐに食事と一緒に胃に流し込んで、

彼は布団に入った。




「何てツイてないんだ」




目を閉じると、それなりに体力を失っていたのか、

時間を置かずに寝入った。

気がつくと、彼は一本道を歩いていたという。




「何ていうのかな、森の中とか都会とか

 そういう道じゃなくて……

 真っ暗な中、白い道を歩いている感じ」




その道を歩いていると、いきなり猿が現れた。

まるで道を通せんぼしているかのように―――

醜悪な顔付きをして、こちらを威嚇し、

襲う気満々という事は一目でわかった。


ふと彼は、自分が棒を手にしていた事に気付いたという。

猿が襲い掛かってきたところを、その棒で打ち付ける。

何度も何度も打ちつけるが、その度猿は退きながらも再度

攻撃の機会を伺うように離れない。


何度か打ちつけている内に、猿は弱っていき、

段々と動かなくなっていった。

やがてピクリとも動かなかった猿をまたいで、

ようやく立ちふさがっていた道を進もうとすると、

そこで目が覚めたという。




「そこで思い出したんだ。

 関係あるかどうかはわからないけど」




病院から帰宅する際、彼は医師から注意を受けていた。




「今日一日は絶対安静にしてください。

 吐き気や目まいがしたら、即座に救急車を呼んで」




顔面を強打したので、24時間は脳出血に用心しなければ

ならない、との事だった。

朝、渡された薬を飲もうとした時に詳しい注意書きを

見つけたという。




「あれを殺さなかったら、どうなっていたんだろうね。

 まあそんな事よりも」




結局、事故は自損扱いになり、治療費と眼鏡代と

自転車の修理代が自腹だった事の方が問題だと、

彼は憤慨した。





挿絵(By みてみん)

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