64「足跡」【挿絵あり】
ある大学の登山部の顧問から聞いた話。
「姿は見なかったんだが」
そう断りを入れて話し始めたのは、まだ彼自身が
学生の頃の出来事だった。
冬山ではあるが、それほど標高は無い山に一人で
アタックをかけていた時の事。
吹雪いてきたので、様子見のためにテントを張った。
結局、吹雪は一晩続いたが、翌朝は快晴となって
アタックを再開する事に。
「いざ、って時に気付いたんだ」
テントの近く、そこから大きな犬のような足跡が、
点々と続いていた。
最初は小熊かと思ったらしいが、その山に熊が
出るなんて聞いた事も無い。
その気になれば1両日中には下山出来る山なので、
興味がわいた彼はその足跡を追っていく事にした。
「だが、追っていくうちに妙な感じがしてなぁ」
最初は小熊かと見間違うほど大きな足跡だと思ったが、
それがいつの間にか普通のサイズになっている。
追っていくうちに、それが段々と小さくなっている事に
気付いた。
やがてそれが小型犬サイズになり、そして棒で
突いたような小さな穴となっていく。
そして何も無いような広い雪原で、それは点となって
消えてしまった。
「それでお終いだったんだけどな。
あまり面白くも無いだろうけど」
東京近郊の、電車で2時間もかからない
山だったそうだ。