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61「噛む」【挿絵あり】
縁日関係の、いわゆるテキ屋の方から聞いた話。
その祭りではお面を売る事にしていた彼は、
当日、現地で準備に追われていた。
ふと、面が風に吹かれ飛んでしまった。
近くの雑木とも藪ともつかない中へ落ち、
仕方無く彼は中へ腕を突っ込んだ。
「いつっ!」
指先が何かに噛まれたように痛みが走った。
藪の中をのぞくと、面と目が合った。
「いひひっ」
それは意地悪そうに笑うと、薄闇に溶けるように
消えてしまったという。
慌てて元の場所へ逃げ帰ったが、見ていた
仲間から逆に質問された。
どうやら、仲間には飛んでいったお面が
見えなかったらしく、いきなりどこかへ
行ったように見えたそうだ。
「後から考えてみれば、あんなお面、
扱ってた中には無かったな」
獣と人の中間のようなお面だったという。





