59「爆竹」【挿絵あり】
母方の実家が秋田の人のお話。
子供の頃は、夏休みになると、それこそ
まるまる1ヶ月、その実家に帰省していたという。
その村は坂の下と上に駄菓子屋というかよろず屋が
あったらしい。
たいていのお菓子や生活必需品はそこで買う事が
出来たという。
ある夜、地元の友人と一緒に花火で遊ぶ事になった。
坂の下のよろず屋の近くで、足りなくなったら
そこで補充するつもりで、仲間と一緒に花火を
楽しんだ。
「一通り終えてから、もう少しやろうと
僕1人で補充分を買いに行ったんです」
近くと言っても、花火をしている場所から
よろず屋まで、直線で50メートルは離れている。
外灯はあるが、田舎の外灯は間隔が都会のそれとは
全く違う。
それでも、振り返れば視界の中に仲間の姿は
見えるので、時々後ろへ振り向きながら、
彼はよろず屋へと入った。
「中でいくらか花火を買って、外へ出たんですが」
何か後方がやけに明るい気がした。
視線はすでに仲間たちの元へ向けられている。
おそるおそる、後ろへ振り返ると―――
そこには、彼の前方3メートルくらいのところで、
真っ白な炎が揺れていた。
高さは1メートルくらいあっただろうか。
「そこで店に飛び込めば良かったんでしょうけど、
気が動転していて」
彼は叫び声を上げながら、仲間のところまで
一直線に駆けていった。
そこでは、運悪く残りの爆竹を全て処分しようと、
火を付けた直後だった。
その爆発と煙の中に、彼は突っ込んだ。
「みんな道路脇によけているから、変だなあ、
とは思っていたんですが」
落ち着いた後、彼は皆に事情を説明したが、
「ウソだー、驚かせようとしたんだろって。
そりゃ、大量の爆竹の中に突っ込んで行けば
驚くだろうけど、そこまでサービス精神
旺盛じゃねえ! って」
そして、彼は片方のサンダルが脱げている事に気付いた。
皆で一緒によろず屋まで探しに行ったが、どうしても
それは見つからない。
仕方なく、花火をお開きにして家に戻ると―――
「玄関の中に片方が置いてありました」
母方の父、つまり祖父にその事を話すと、
「狐か狸だろうが―――
まさかそんな事になるとは思わず、悪いと感じて
返しに来たんだろう」
そのサンダルは捨てずに、今でも母方の実家に
置いてあるそうだ。





