52「拍手」【挿絵あり】
都内で小学校の教師をしている知人から聞いた話。
彼は、昔は大道芸をしており、今でも何か
イベントがあると、無料で参加しているという。
彼のパフォーマンスは、
「足長」(スティルト)と呼ばれるもので、
2~3メートルのいわゆる竹馬の足場部分だけで
歩くような技。
それをタキシードなどで正装して、野外、あるいは
会場内をねり歩くのだ。
まだ学生だった頃は、練習にも一苦労したという。
住んでいたボロアパートなどで練習出来るはずもなく、
いつも近くにある竹林などで彼はトレーニングを
行っていた。
「今考えてみれば、
もってこいの場所ではありましたね」
足場に乗るには苦労するものの、手をかけるのに
大量の竹が存在し、転ぶ心配をする必要はなかった。
ある日、日没まで練習していた彼は、ついにどの竹にも
つかまる事なく、竹林の中を歩ききった。
達成感を抑えきれず、思わずその場で彼は
“やったー!!”
と叫んでしまった。
「その時、
拍手が聞こえたんです」
どこから? と聞くと上を指差し
“頭の上から”
と答えた。
見上げると、頭上のさらに上の方の竹の幹から、
それぞれ二本の手が伸びて、拍手を繰り返していた。
「すぐに足場を降りて帰りました。
場所を貸してもらって、祝福もしてくれたのに、
失礼な話ですけどね」
その後、その竹林で練習をする事はしなくなった。
ただ、今でもイベントなどに出る時は、そこに
お酒を供えに行くそうだ。