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49「リサーチ」【挿絵あり】
知人から聞いた、さらにその知人の話。
その人は新聞社に勤めていて、編集に関わる都合上、
終電や終バスで帰るのは、珍しい事ではなかった。
ある時、いつものように日付も変わった時刻に
帰る事になった。
乗り継ぎの最後のバスを待っていると、
停留所にそれが来て停車した。
「はて?」
そう思わず彼は声を上げた。
この時間帯のバスは普通、そんなに乗客は
いないはずだ。
しかし今目の前にあるバスには、乗客が
ぎっしりと詰まっている。
彼は数歩後退して、乗る意思の無い事を
運転手に示した。
「……ダメか」
小さく運転手がつぶやいたのを、彼の耳は
逃さなかった。
やがてそのバスが遠ざかるに連れて、今度は乗客が
2、3人しか乗っていない、“いつも通り”のバスが
やってきたという。
「そいつは笑っていたよ。
“何者かは知らないがリサーチが足りん!”って」
30年ほど前の、神奈川県での話らしい。