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42「電車」【挿絵あり】
とある会社員の方から聞いた話。
彼の会社の最寄駅は階段が長く、さらに
使用している方面出入口はエスカレーターが
設置されていなかった。
「帰りは下りだから楽ですけど」
ある日、彼が帰宅しようと駅の階段を降りていくと、
自分の足元の視界に駆け下りる影が入った。
「え?」
あまりの速さに正確な姿は確認出来なかったが、
それは黒猫のように見えた。
急スピードで階段を駆け下りると、ちょうど駅に
停車して開いていた電車のドアの中へと消えてしまった。
当然だが電車はドアを閉じ、そのまま次の駅へ発車した。
「変な猫もいるもんだなぁ、
その時はそうとしか思わなかったんですけど」
数分後、隣りの駅で電車が止まったとのアナウンスが
入った。
「線路に人が入ったとの情報で……」
その日の帰りは1時間ほど遅れたという。