39「誘拐」【挿絵あり】
知人から聞いた話。
本人ではなく、その彼女の事なのだが、ペットは
ウサギ派で白黒のウサギを大変可愛がっていた。
しかし、やがて寿命を迎え―――
落ち込んでいる彼女を温泉に誘った彼は、その帰る日に
とんでもない物を見つけた。
「持ってきちゃった……」
彼女のバッグの中には小さなウサギがいた。
温泉施設の一角にウサギ小屋というか、放牧場のような
ものがあり、それが彼女をその温泉へ誘った理由でも
あるのだが―――
「一匹くらいなら……って」
さすがに彼も問題とは思ったが、考えてみれば
そこのウサギは何十匹もいたそうで、一匹だけなら
わからないだろうと思い、目をつむった。
事件は夜に起きた。
もっとも、気付いたのは朝。
「きゃっ」という彼女の悲鳴と共に彼が見たものは、
彼女のバッグだった。
ブランドもののそれが、無残にもボロボロになっていた。
長年ウサギを飼ってきた彼女は、その状態を一目で
理解した。
しかし連れ帰ってきたウサギはゲージの中。それに、
「……一匹じゃないよね、コレ」
と彼女は肩を落とした。
「仲間が怒ったんですかね。
で、返しに行きました?」
彼は首を左右に振り、
「俺もそう言ったんだけど、ブランドバッグ一個ムダに
したんだから、このコもらってもいいでしょ!
って。
俺に言われても……」
そう言って彼は頭をかいた。





