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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
36/300

36「初めて」【挿絵あり】



ある広告代理店に勤める男性から聞いた話。

彼は近く結婚が決まっており、相手はお互い

初恋同士とあって、周囲から冷やかされていた。




「でもね、彼女の方は僕が初めての

 相手とは思ってなくて」




そう誤解されるのも無理は無いんですけど、

と彼は話し始めた。




彼の母方の実家は長野で、春休みや夏休みなど、

長期的な休みがある時はよく里帰りしていた。




「母方の家は女系というか……

 とにかく実家から親戚にいたるまで、

 女が多かったんです」




母親は4人姉妹の長女、また親戚の子も姉妹か1人娘で、

彼の存在は一際目立つものであった。




「だから遊び相手は年上だろうと年下だろうと、

 みんな女性で。

 そんな中、同じ歳で一番仲の良かった子が

 いたんです」




今考えると、その子と2人きりで遊ぶか、

その子以外の複数人で遊ぶかのどちらかだったという。




また、やんちゃだった彼はイタズラをしては、

古い土蔵にお仕置きとしてよく閉じ込められた。




「そんな時でも、彼女は土蔵まで来てくれていました」




ある時、よほどひどいイタズラをしたのか、

土蔵に夕食抜きで閉じ込められた。

土蔵の壁には一応格子付きの窓があり、そこから

外とコミニュケーションを取る事が可能で、

そこを通じて彼女と会話した。




「僕が何か物を踏み台にして顔を出すと、

 彼女もそれに合わせてくれて。

 ……で、その時の彼女はやけに無口で、

 ちょんちょんと指でつついてきて」




何だろう、と思って格子に顔を近づけた

途端、唇が重なった。

舌で口をこじ開けるようにして、何かが押し込まれた。




「煮物のじゃがいもでした」




口を放した後、かんでそれを飲み込んだ。

聞くと、食べ物を持ってきたかったけど、

見つかるとマズイので口の中に隠してきたという。




「その時はふ~んとしか思ってなかったんですけど。

 まだ小学生くらいの頃でしたし」




それからというもの、2人でよく食べ物を口移し

し合ったという。




「でもですね。どうもその子、親戚の子じゃなかった

 みたいなんですよ」




思い当たるフシはあった。

そこの田舎では夜になると極力外には出ず、親戚か

知り合いの家にいればそのまま寝てしまう。

しかし、その子は家に泊まった記憶が無かった。




何度かどこの子か聞こうとしたが、会う時には何故か

それを忘れたり、またどうでもよくなってしまい、

最後まで聞く機会は無かったという。




高校に入学したあたりから次第に彼女と会う回数も

減っていき―――

卒業後に一度会ったのを最後に、二度と会う事は

無かった。




だから『女の扱い』には長けており、そこがなかなか

今の彼女に信用されるまで時間がかかった。

ちなみに、和服を着ていたとかそういう事は無く、

いたって普通の洋服を着たセミロングの子だったという。




「で、でもですね。

 少なくとも『生身の』『人間の』恋人は

 今の彼女が初めてだったんですよ」




……言い訳に聞こえなくもない。





挿絵(By みてみん)

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