97「行事」
・現代怪談話・伝聞
「まあ、古い土地ですから。
いろいろあると思います」
とある資産家の、鎌倉にある別荘を任されている
初老の男性から聞いた話。
そこは建物も広く―――
また歴史もかなりあるようで、古い日本建築の
様式が特徴だった。
「まあ、私どもは使用人ですので。
掃除や身の回りの世話などが終われば、
離れで寝泊りします」
資産家がその別荘を使うのは、夏や冬など
何か季節ごとのお休みや、もしくは正月など……
合計しても年に一ヶ月あるかないかだという。
「ただ、決まりというか―――
年に一度だけ、ご当主の方が来られる日が
ございました」
その日……記憶によれば一月の終わりか二月の
始め頃。
当主一人だけが別荘に来るのだという。
「その時は親戚も知人も誰もおりません。
ただ、ご当主様一人だけが別荘に入るのです。
その間は私ども使用人も入る事は許されません
でしたね」
まあ一人になりたい時もあるのだろう、と
何気なくある時、その事について当主に聞く
機会があった。
「う~ん。そんなものじゃないけどねえ」
当主の話によると、一年に一度だけ自分一人が
来なければならない日があるのだという。
雑談と思い、彼に話を合わせていると、
「会わなけきゃいけなくてね、一年に一度。
それさえなければここは文句無しなんだけど
さぁ」
会うとは何なのだろうか。
ただ聞き返しもせず、当主の言う事を空返事で
聞き続けると、
「鬼が出る、と言っておりました。
何でも決められた日に会わなければいけない
約束をしたらしく……
自分にとっては職場でしたし、そんなものが
出るなんて見た事も聞いた事も無かったので
驚きましたよ」
その鬼の特徴とは、
・何もしないし実害も無い。
・何か良い事がある年は背中を向けて、
「おめでとう」と悔しそうにつぶやく。
・何か悪い事がある年は前を向いて、
喜色満面で現れる。
というものらしい。
「まあご当主様の作り話かも知れません。
もうすでに鬼籍に入られましたし、
確認も出来ませんので……」
じゃあもうそういう事は行われていないの
ですか、と聞くと、
「はあ、後を継いだ現当主様がしておられる
ようですなあ」
そう言って品の良い微笑みを見せた。
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