29「丸太」【挿絵あり(やとりるdeカムロらしき物体様からの頂き物です)】
聞いた話。
元々木こりをしていた人で、かなり年配だが、
今でも時折り山に入るという方から、
こんな話を聞いた。
彼の父親もまた木こりをしていて、よく連れられて
山に入っていった。
仕事の手伝いもあるが、まだ小さい頃は出来る事も
限られていて、ほとんどは遊んでいた。
気に入っていた遊びは木登りで、高い木を
見つけては登り、そこから見える景色に
見入っていたという。
そのうち、ただ登るだけではなくなるべく高い木を
選ぶようになり、日々もっと高い木はないかと
探し回っていたそうだ。
ある日の事、見た事も無い高い木を見つけた
彼は、さっそくチャレンジする事に。
幹に手をかけ、するすると登っていく。
なんだか表面がザラザラしていて、それが滑り止め
みたいになって、今までのどの木よりも登るのが
容易だった。
突然、木が倒れ始めた。
ただ自然に倒れていくのではなく、何かゆっくりと
その幹を地面に押しつけようとしているかのように。
抱きつくようにしがみついていた幹がブルッと震え、
倒れたそれは、木々の間をぬうようにして前進していく。
慌てて手を離し、その木が奥へ奥へ消えていくのを
ただ見送った。
「蛇、とも思ったんだけど。
あそこまでいくと龍だな、ありゃ」
父親のところへ戻り、その事を話すと顔色を変えて
すぐに下山し、それから数日は山仕事を休んだという。