73「卵」
・現代怪談話・伝聞
とある獣医さんの話。
彼女はとある地方で、養鶏場の仕事に
関わった事があった。
と言ってもその頃はまだ高校生で、
今の仕事とは何の関係も無く―――
アルバイトとしてそこを手伝っていたらしい。
「まあ雑用ですね。
基本的にはほとんど機械化されて
いましたので、目視チェックと
荷物運びなどの単純労働が主でした」
卵は産んだ先からベルトコンベアみたいな
機械で運ばれ、
ただ取り残しが出る場合があるので……
そのチェックもしていたのだが、
「残っている卵を見つけたんですけど、
あれ? と思ったんですよ」
取り立てて何の特色も無い、ただの白い
卵だったのだが―――
何か心臓の鼓動というか、『中身が動いている』
ような印象を受けたのだという。
「でも今ならわかりますけど……
無精卵のはずですし、何より有精だったと
しても、産んだ端から雛が孵るような事も
あり得るはずが無いんです」
もちろん、実際に動いていたわけではなく、
ただ『産まれたがっている』『早く外へ出ようと
している』イメージが脳内に浮かんだだけ
だったのだが、
そこで背後から老齢の経営者に声をかけられ、
「あぁ、こりゃいいんだ、いいんだ」
と、ひょいとその卵をつかむとそのまま
裏手にあった小さな川へと向かい、
「え」
何気なくついていった彼女の目の前で、
老人は川へポイッ、とその卵を捨てた。
いったい何を―――
そう思っていると、捨てた川からバシャッ、
と小さく水飛沫があがり、
何かが下流へと水中を泳いでいったのが見えた。
「何ですか、あれ」
「俺にもわかんね。
ただまあ、先代からこうする決まりなんだ」
もう十年以上前の話だが、その養鶏場は
代替わりしてまだ続けられているそうだ。
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