65「屋台」
・現代怪談話・伝聞
とある出版社に勤める男性の話。
一時期ほどの景気は無い出版業界でも、
基本的に万年人手不足の業種で、忙しい時は
24時間忙しく、文字通り会社は『不夜城』と
化す事が当たり前だという。
日付はとっくに代わり、終電すら無くなった時、
彼は小腹を満たすためにフラフラと夜の街へ
足を踏み出した。
「遠くに明かりが見えて―――
屋台があったんですよ。
あ、ここでもいいかって思って」
吸い寄せられるようにそちらへ向かうと、
時代錯誤というか古めかしいというか、
木製の屋台が見えて来た。
それは時代劇のセットをそこに一時置いて
おいたのかと思えるほどの出来栄えで、
『そば うんどん』と書かれた古風な看板があり、
「見事なものだなあ、と思って見ていたんです。
光って見えたのは行燈で、そこに文字が書いて
あって……
とにかく再現度というか、精巧な作りでした」
彼はしばらく観察するようにぐるりと屋台の
周囲を回ったが、催促するように腹の虫が鳴った。
そこで離れ、コンビニで軽食を買って会社へ
戻ったという。
そこで、『ここらで時代劇の撮影とか
ありましたっけ?』と、他にも夜食を取っている
同僚たちに聞いたところ、初老の編集長がそこへ
やって来て、
「お前、何もしてないよな?」
と、触ったり壊したり、行燈の火を消したり
しなかったか、と念を押すように聞いてきた。
「いや、高そうなセットでしたし……
見るだけでしたよ」
そう答えると、編集長はホッとした様子で、
「あれは蕎麦の屋台のお化けのようなもので、
壊したり火を消したりすると祟りがあるんだ、
そう教えてくれました」
本所七不思議の一つ、燈無蕎麦というものらしい。
三十年ほど前の、墨田区での話だという。
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