26「木の葉」【挿絵あり】
マッサージ店に勤めている女性から聞いた話。
本格的な店ではなく、いわゆる10分、15分いくらの
クイックマッサージというものである。
「何かを“背負って”いる人が来たりすると、
普通より疲れたりはしますね」
彼女の話によると、普通に疲れている場合は
いいのだが、中には知らず知らずのうちに、
“憑かれて”いる人が厄介だという。
彼女は元々心霊とかそういうものを信じる性格では
なかったのだが、その人生観を変えるような出来事に
遭遇したのは、ある店に勤めている時だった。
「いつものように、お客さんをマッサージ
していたんですけど」
肩や首の凝りが酷い人で、いくらやっても
ほぐれたような気がしない。
汗だくになっていると、店長が様子を見に来た。
「僕が代わろう」
さすがに店長だと思っていると、彼は持ってきた
スプレーで手を濡らし始めた。
「何ですかそれ?」と聞いても答えずに、そのまま
お客の肩を揉み始めた。
「濡れた手で揉んでいるんですから、そのうち
アカすりみたいになっちゃって。
汚いなあ、とか思って見てたんですが」
それはアカではなかった。
こする度にそれはポロポロと肌から浮き出てきたが、
よく見ると小さな木の葉のように見えたという。
しかも、それは床には落ちずに、肌から出ては中空で
渦巻きを作っていく。
「ちょっと窓を開けて」
店長に言われるがままに窓を開けると、
それはつむじ風のように舞いながら、
開けた窓の隙間から出て行った。
「そこで気付いたんですけど」
それは木の葉ではなかった。
正確には、葉を羽根のようにした蝶の一群だった。
その客は、マッサージが終わるとすごく喜んでいた。
曰く、どこのマッサージ店に行ってもダメだったけど、
ここはスゴい、あれだけ治らなかった肩凝りが
治ったと―――
そう何度も礼を言っていたという。
「あいつ、どこかの山で火遊びしてきたな」
その客が店を出て行った後、店長がぽつりと
そう言ったのが印象的だったという。
それから半年ほどして、店長は実家を継ぐという
理由で、故郷へ帰ってしまった。
「神主の息子さんだったみたいです」
彼女も、今は別の店で働いているので、彼や
その店がどうなったかは不明だが、今でも
あのスプレーの中身だけは教えてもらえば
良かったと、残念そうに言った。