53「完成度」
・現代怪談話・伝聞
とある古民具を扱う人の話。
「何かの取引でね、人形作りを生業とする人に
会いに行ったんだ」
基本、アンティークと呼ばれるものを売買して
いるので、製作者や生産者と呼ばれる人に会う事は
ほとんどない。
だから何でその人に会ったのかまでは覚えて
いないけど、と前置きした上で初老の彼は
語り始めた。
「お互いに自己紹介みたいなものから始まってね。
それでふと、雑談の中で―――
何に一番気を付けているか、何を重要と
見ているか、そんな話になったんだ」
彼は『頑丈』で『安全』である事をあげた。
実際、何十年、ともすれば百年使用に耐えてきた
物もある。
扱いさえ悪くなければ、少なくとも使用者が生きて
いる間は使い続けられると。
「向こうの方はね、確か……
『完璧にしない事』と言ってたっけな」
若いうちは精巧な、生きていると見まがうほどの
物を作ろうと努力してきた。
しかし人形作りが三十年にも達しようという時、
それを求めなくなったという。
「何でも、一歩手前で止める事にしたらしい。
あまり完全に仕上げると、却ってまずいんだと」
その理由は? と彼は聞いた。
すると返ってきた答えは、
「いろいろなものが入るから、だと。
人の形と書いて人形―――
それにもともと形の無かったものが
入りたがるんだそうだ」
だからわざと一段落として作るように
なっていった。
だが顧客の中には目ざとい人もいて、
どうしても『完璧な』ものが欲しいって
言う人もいたらしい。
「断り切れずに何体か作った事もあると
言っていたな」
それはどうなったのか聞こうとすると、
察したのか彼は首を左右に振って、
「それ以上は聞けなかったよ」
その人形作りの人は今は米寿を越えている
らしいが、まだ腕は健在だそうだ。
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