50「悪夢」
・夢の都市伝説について
お寺で修行している知り合いの話。
「猿夢」という都市伝説がある。
正確には、「猿が出てくる電車の中の夢」で、
電車に乗った後にアナウンスが流れ、
「次は~活けづくり~活けづくり」
「次は~えぐり出し~えぐり出し」
「次は~挽肉~挽肉です~」
と、奇妙な放送がされる度、その通りに
猿たちによって乗客が惨殺されていく。
自分の番になって、強く目覚めろと念じたら
夢から覚め、逃げられたというもの。
「どういう意味のものなんでしょうかね?」
彼が同僚たちに問うと、ストレスや深層心理など、
いろいろな意見が飛び交ったが、
「猿、なあ」
荷物整理だか何やら、手作業をしていた師が
手を止めて話に入ってきた。
「猿である事に、意味ってあるんでしょうか」
同僚の一人の問いに、みんなが考え込む。
動物であるのなら、別にそれこそ猫だって
犬だっていいわけだし、と思っていると、
「『難化の人の心、猿猴のごとし』―――
維摩経という仏教の経典に、
そういう言葉がある」
猿猴とはそのまま猿という意味で、
難化の人の心とは、仏の導きを聞こうとしない
人間の心、という事らしい。
「猿猴のごとし、とは猿のよう、つまり
落ち着きなくウロウロと常に動き回って
いる様を言っている。
正しい教えを受けていないから、
外の情報に振り回されるだけ―――
という事だな」
「でもそれが、猿夢とどんな関係が」
知り合いがたずねると、師は続けて
「日光の、見ざる聞かざる言わざる……
というのも猿だろ。
あれがある日光東照宮は神社だが、
建てられた時は天台宗の寺としての
役割もあったんだ。
あれも仏教の教えが影響している、という
話がある」
曰く、
理不尽な事を見て仕方なしと認めるな、
甘い言葉や誘いに耳を貸すな、
偏見や狭い知識で物事を語るな、
不見・不聞・不言―――
という逆説的な意味も含まれているのだという。
「単純に言えば、素直に成長しろよって事だが。
つまりその猿夢とやらであった事は……
アナウンスであった事・目の前で行われた事・
目覚めるようにと念じていたという事は、
しゃべる事が出来なかった、とも思われるし」
だからそんな夢を見たという事は―――
『猿猴のごとし』になっていないか?
というある種のジャッジというか、戒めを示して
いるとも考えられるとの事。
師の説明に全員が神妙な表情でうなずくと、
「まあ仏教っていろいろと逸話が多いから、
こうやってこじつけられるんだけどな!」
オチで台無しにしながら、生臭坊主は
カラカラと笑った。
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