37「パン」
・現代怪談話・伝聞
「不思議な話、ですか」
翻訳業をしている三十代の女性から聞いた話。
「自分は書籍だけですからいいんですけど、
翻訳作業ってすごく疲れるんですよ。
リアルタイムで通訳する人なんて、いつも
アメを舐めて糖分補給しているという
話もあるくらい」
彼女も例にもれず、作業も佳境に入ると―――
菓子パンやチョコレートなどの甘い物を
準備しておいて、それを食べていた。
「それで、はて? と思う事が何度か
あったんですよ」
いつの間にか、用意しておいた菓子パンや
甘味が無くなっていたという。
自分で食べて忘れたかな、とも思ったが、
それなら口の中に甘さなり匂いが残っている
はずで―――
「でもぜんぜんそんな事無いし。
一仕事終わった後、どこかに落ちていて
腐ったりしたらたまらないと、全力で
探し回りました」
だがそれらは一向に見つからず、狭い部屋の中
見つからないという事も考えられず……
結局諦めたのだが、そんな事が何度も
あったのだという。
「今では無意識に食べちゃったのかあ、と
自分で自分を納得させていますけどね」
ただ、そんな事があったのは今の場所に引っ越す
前の部屋で―――
今の部屋になってからは、不思議な事は一度も
起きていないとの事。
次の住人からも、何かしらもらえていたら
いいなあ、そう彼女はつぶやいた。
( ・ω・)最後まで読んでくださり
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