36「反証」
・反対の立証について。
お寺で修行している知り合いの話。
珍しく彼の師匠から話を切り出した事があった。
それは、死者の声についてで、
「ある時、墓で録音を試みようとする
バカが来た事があってなあ」
どこかの大学のオカルトとか、幽霊絡みを
研究しているサークルだったらしいのだが、
「死者っつーか、心霊の声を録りたいとか
言ってやがった」
「どうしたんです?」
彼が聞き返すと、
「幽霊とか、ンなものいるかボケって追い返した」
身も蓋も無い返しだが、本職のお坊さんにそう
言われて、彼らはすごすごと帰ったという。
「まあ、無いものは録れませんよね」
と、同僚の一人が同調すると、
「逆に、本物だからこそ録れないって事も
あるんじゃねえかな」
気になる言い方をする師に、彼を含め同僚たちが
注目すると―――
師は、『幽霊の声が入ったテープ』というのを
聞いた事があるらしい。
もう二・三十年も前の話だが、それを持ち込んだのは
ある歴史学者だったとの事。
彼はとある百年ほど前にあった屋敷を調査して
いたらしい。
そこで、当時そこで働いていたという使用人を
探し出し……
そのインタビューを当時のカセットテープ
レコーダーに録音した。
「いやそれって、生きている人なんじゃ」
「それがな。
俺もそのテープを聞いたんだが、
学者さんの声しか入ってなかったんだよ。
ただ1人で受け答えしているような、
そんな声が入っていただけで」
どういう事かわからず、もう一度その使用人に
掛け合おうとしたが……
自分がインタビューをする数年前に、この世を
去っていたという事がわかった。
「……そのインタビューの様子を見て、
他の人たちはおかしいとは思わなかったんで
しょうか」
彼の問いに、師は頭をかいて、
「その使用人の家でインタビューした
らしいんだが……
家族は、知り合いの息子さんかと思っていた
らしい。
仏間で、霊前に語り掛けていたのだろうと―――
だからインタビューも別に気に留めていなかった
ようだ」
そのテープは? と彼が聞くと、
『もっと科学技術が発達すれば、何か判明するかも
知れないから』
そう言ってその学者さんが保管していると、
師は答えた。
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