35「弁償」
・現代怪談話・伝聞
とある弁護士の話。
彼は若い頃、よく各地に旅行に行っていた。
ふらっと出かけるようなものではなく、
計画を立て、予約を取り、観光を楽しむ。
それを月イチくらいの割合で―――
ところがある時、手違いか何かで宿が
取れていない事態に。
他も満室で、途方に暮れてしまった。
そこは民宿で、宿屋の主人は平身低頭
謝りまくってきたという。
しかし場所は山奥で、今から近場の街の
ビジネスホテルへ……という流れになりかけて
いたところ、
「建て替えた宿がございます。
本来なら来月から営業予定でしたが、
そこでよろしければ」
そう言われて離れた場所へ案内されたところ、
立派な二階建ての建物があった。
電気も水道も通っており、布団も備品もすでに
運び入れられているので―――
宿泊に問題は無いという。
「料理もお運びしますので、どうかここで
ガマンして頂けないでしょうか。
交通費、宿泊費はこちらで負担いたします」
つまり無料にしてくれる上、交通費も払って
くれるというのだ。
当初はどうなる事かと思ったが、むしろ
ラッキーだったと切り替え、彼はそこに
泊る事にした。
「お風呂が沸きました。
どうぞお入りください」
来月には営業という事もあり、施設としては
問題なく稼働しているようで……
トラブルで疲れた事もあり、夕食前に風呂へと
案内された。
どうぞごゆっくり―――
そう言って民宿の女将は戻っていき、
彼は浴場へと入っていった。
「え?」
湯舟を見ると、そこには先客がおり……
湯気で良く見えないが若い女性、そして
少女が一人ずつ。
「えっ?」
「ええっ!?」
次の瞬間、『キャーーー!!』という声が聞こえ、
彼は慌てて浴場から脱出。そこへ女将さんが来て、
「ど、どうしましたか?
今の声は?」
「あの、じょ、女性が先に入っていて……」
それを聞いた女将さんは慌てて浴場へと
駆け込んでいったが、
「誰もいなかったっていうんです。
でも、女性の声は女将さんも聞いていたので……
そこは元々古い民宿を建て替えたものらしく、
噂らしい噂も無かったとかで―――
女将さんも主人も首をひねっていました」
結局、その後はこれと言って何も起こらず、
帰りに交通費をもらった彼は、何度も頭を
下げられて民宿を後にした。
ただ、その後も年に一回は、その民宿に
泊っているという。
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