09「混線」
・現代怪談話・伝聞
ある大手商社に勤める男性から聞いた話。
今でこそ柔和な性格をしている彼だが、
若い頃は融通のきかない人間で、社内でも
有名だったらしい。
「電話の対応とかもね。
たいていは下請けの会社が相手なんだけど、
席を外している人間の予定とかわからない、
と言われると怒鳴ってた。
『同じ会社の人間の予定がわからないわけ
あるか!!』って。
嫌な人間だったと思うよ」
ある時、いつものように下請けの会社に
連絡を取っていた。
しかし、その時はいつまで経っても電話が
つながらなかった。
「何か時々、小さな子供の声が聞こえていたな。
笑うような、笑いを押し殺すような声」
なんだろう、と思っているとやっと先方が
電話に出た。
だが目的の相手ではなく、聞くと『○○は
席を外しておりまして―――』と返してきた。
「で、『行き先は?』と聞いてさ。
『すいません、確認します』って返ってきて、
それでまた怒っちゃって。
『何で同じ会社にいてその人間の行き先が
わからないんだ!!』って」
ふと、電話の声が止まった。
どうやら目的の相手が来たらしい。
その声は、『あ、○○クン、電話』と言って
交代した。
「その相手は部長クラスだったんだけど、
その部長を“クン”呼ばわりする相手って
一体……
そう思って今までの電話の相手を聞いたんだ」
返答は、“うちの社長が何か?”というもの
だった。
いかに先方が下請けとはいえ、取引先の社長に
無礼は許されない。
何度も先方に頭を下げ、後に詫びの品を持参し、
事無きを得たという。
「あれ以来、怒ったりするのは止めたよ。
相手がどんな立場であろうと、取り合えず
頭を下げていれば問題無いし」
後に、その会社に電話で聞こえた子供の声の
事を話すと、“ああ、やられましたか”と、
事も無げな返答をされたという。
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