08「悪魔」
・人ならざるものの職人に対する評価について
お寺で修行している知り合いの話。
百怪17話『ラベル』で―――
『本物』は、商標や絵・ラベルに気を使うという
話が出てきた。
「それはあり得るんでしょうか」
彼は何気なく、同僚を交えて師匠に話を
振ってみたところ、
「まあ仏教の話じゃなくなるが……」
伝聞の又聞き、という前提で師が話し始めた。
悪魔と付き合っているという人間がいた。
もっとも、ビジネスライクな関係だと当人は
言っていたらしいが。
「その悪魔が報酬で要求したのが、
酒だったらしい」
そして、指定の酒を渡す時―――
必ずラベルを剥がしてくれ、と頼まれて
いたそうだ。
「え、それって……」
「まあそういう事なんだろう。
考えてみればそうかもしれん。
ワインはキリストの血、日本酒はお神酒。
その造り場は結界が張られているとも
言っていた。
古い酒、そして造る建物はみなそうだと」
ううむ、と全員がうなずき―――
「それで俺もよ。
何でそいつは、酒作りの職人と仲良く
ならねえんだ?
って聞いてみたんだが」
「まあ、その方が手っ取り早いですよね」
そこで師はグイッとお茶を喉に流し込み、
「ダメらしい。
何ていうか、説明が難しいんだが……
いわゆる、自然を相手にしてきたベテランの
職人というのは、悪魔は苦手らしいんだ。
自然の摂理ともいうべきものを身につけて
いるとでもいうのか―――
下手な聖職者よりも怖いんだとさ。
その人物の力量による、とも言っていたが」
ふむふむ、と全員が聞き入る。
「今のお酒はそんな事はないらしいんだがな。
それにマズいんだと。
その悪魔に言わせると」
「ずいぶんと舌が肥えていますね……」
苦笑しながら彼と同僚が聞き返すと、
「それについては、面白い事を言ってたらしい。
『今のお酒はお酒じゃない。あれは無理やり
そういう形にしようとしたのを失敗した物だ。
あんな物を飲んでいたら体が変になる。
人間は寿命が短いのでわからないんだろうな』
だってさ」
悪魔でも健康に気を使うのかなあ―――
と彼は思ったが、そこは空気を読んで
聞かなかったという。
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