07「死に金」
・現代怪談話・伝聞
「金には、いろいろな念が憑く」
何年か前に、知り合いがある法事で“門番”を
務めた時があった。
そこで報酬代わりに、そこの住職にお話を
聞かせて頂いたという。
「しかし今は、通帳とか数字の上だけ
だったりしますが……
それでも憑きますか?」
そう言うと首を横に振った。
いわく“昔より憑きやすい”という。
「オンラインになって、“流れ”がはっきり
するようになったからね。
その物じゃなく、“流れ”に憑くんだ、
ああいうのは」
だから、会社の経理など、知らず知らずのうちに
“憑かれて”いる場合もあるらしい。
「一時的にしろ、“流れ”がそこで留まって
しまうと、念もそこに溜まる。
それに、金の管理を任される人間っていうのは、
それなりの責任のある立場だ。
金が“無関係”とは見ちゃくれん」
念の溜まったお金はどうすればいいのか、
“浄財”という言葉があるが、それは可能なのか
聞くと、
「もちろん出来るが、モノによっては
受けられない場合もある」
数年前、自分の寺で“その手の金”を
相談された事があった。
総額にして5億円はあったという。
「どこに行っても断られて……」
持ってきたのは、人の良さそうな初老の男性で
あったが、一般人では無い事は、小指の欠けた
左手が物語っていた。
男が言うには、自分の妻に始まり、古い部下や
仕事を任せていた新人など、実に6人ほどが
病死や事故死を遂げた。
「知り合いの寺に話してみたら、その金が
原因だっていうから……
半分出すから何とかしてくれ、と言ったら
“そんな金、絶対受け取れない”とまで
言われてしまって」
方々の寺や神社に行ったが、一見で断られ、
かと言って譲渡や投資に使えば、税務署が
黙っていない“金”である。
住職は取り合えず金の一部を受け取って、
桐の箱に入れて念仏を唱えた。
「すぐに白い煙が上がってな。
箱の表面に黒い筋が走った。
……地獄の火だ」
その現象を見て頭を抱える男に向かって
住職は聞いた。
「生きたいか?」
男はぶんぶんと首を縦に振った。
住職は奥から別の箱を持ってきた。
そこに先ほどの金を入れ、また念仏を
唱え始めた。
「今度は、箱の表面にチカチカと火花が散ったが、
それだけで終わった。
“何とかなると思うが、半分も返って
来ないかも知れん。それで良いか?”
そう聞いたら、額を畳にこすり付けていたよ」
翌日、寺で5億円を預かった。
その日のうちに、予め連絡してあった知り合いの
寺へ、それぞれ分けて持ち帰ってもらったという。
「樹齢800年を越えた霊木で作った箱なんぞ、
そうそう無いからなあ。
持っている寺に片っ端から連絡して、
それこそ、北は北海道から南は九州まで
日本全国に分割したんだ」
寄進という形を取り、1年後、それぞれの寺へ
頭を下げていくらかでも返してもらえ、
そう男に告げた。
結局、2千万ほどが男の手元に戻ってきたという。
「その後、足を洗ったって聞いたしな。
老後の生活費としちゃ充分だろう」
しかし、ちょっと取り過ぎじゃないですかね、
と意見したところ、
「霊木で出来た箱、軽く億超えるんだが……
上手く行くとは限らんし、商売にしたら
割に合わんと思うがね」
ちなみに、その時の住職の取り分は5千万円
ほどだったという。
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