06「決めごと」
・自分の決めた行い・ジンクスについて。
お寺で修行している知り合いの話。
子供の頃、横断歩道の白線の上を渡るとか、
お菓子の袋を最後まで切らずに破るとか、
それで運試しや成功にこだわる、というのを
誰しもやった記憶があると思う。
「共通点というか、何か原型―――
もしくは強迫観念みたいなものが
あるのかもな」
師がその話に入ってくると、その事について
自説を述べ始めた。
「原因や過程があって結果がある、とか。
こうしたからこうなる、みたいな考えで
やってんじゃないのかな」
何もしないでただ効果を望むよりは、
自分の行為で何かしら、違った結果を
求めているのでは―――
それももっともだと、全員がうなずいていると、
「後は無意識に、というのもあるが……
これは人に言われないと気付かない
ものだし」
そこで同僚たちが耳を傾けると、
「何ていうかなあ。
だいたいそういう『こだわり』って―――
知らず知らずのうちにやっているものだろ。
言ってみれば『無』に近付いているわけで、
そういう時は入り込まれやすいんだ」
「と言いますと?」
彼が師に聞き返し―――
師は続けて、
「何て事は無い『こだわり』でも、
それが日課になっていたり、または
日を追うごとに過激になってきたり、
とかな」
師の話によると、実例として……
こんな事があったらしい。
とある地方に裏山のある家に住んでいた人が
いたのだが、
何気なく山の中で―――
とある木を見つけ、その根元を掘っていた。
少しずつだが、根本を掘り続け……
ある時、家族から何をしているんだ?
と質問されたという。
ただ、別段理由というほどの事もなく、
誰かに迷惑をかけているわけでもないと―――
そのまま放置された。
そんなある日、辺りを豪雨が襲った。
木の根元は思ったより掘られていたようで、
さらに土砂崩れを起こし、その木が倒れて
しまったという。
それに気付いたのは、雨がやんだ後で……
現場に行ったその人は、根本に何かが埋まって
いるのを発見。
取り出してみると、それは陶器で出来た
壺のような形をしており―――
蓋は厳重にされていたものの、胴の部分が
割れていた。
「……何かの封印ですかね?」
「さてなあ。見せてもらった時には、もう何も
感じなかったし―――
ただ当人もそれで、『何で木の根元なんて
掘っていたんだろう?』と我に返った
みたいでな。
その後は特に、不幸になったとか妙な事が
起きたとか、そういうのは無いらしい」
すると彼の同僚の一人が、
「目的が達成されたから、解放されたん
ですかね?」
その問いに師はう~ん、と両目を閉じ、
「……もしかしたら―――
最終的には木を倒して下敷きにするのが
目的で、それが失敗したから?
というのはさすがに考え過ぎか」
誰も師の疑問に答えなかったという。
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