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百怪  作者: アンミン
怪異
201/300

01「首」

・現代怪談話・伝聞


今は中堅の企業に勤める男性から聞いた話。


若い頃の彼は、高額な商品をローンを組ませて

買わせるという、いわゆる“ローン商法”をする

会社にいた。


「ノルマは無いけど、“目標数値”っていう

 ものがあってね。

 それがノルマみたいなもん。

 それさえクリアしていれば、気楽な会社

 だったけど」


彼はそこそこ働いていたが、売上がトップ

クラスともなると、『ここまでやるのか』

という人間もいる。


「ローンの支払いが滞ったりすると、その

 催促も仕事のうちなんだが」


ベテラン社員は、その“方法”に長けていた。

脅し、なだめ、他から借金させてでも、会社への

支払い分は確保する。


「その中でも、歳はまだ若かったがKって

 ヤツがいてな。

 アイツは最悪だった。

 家族、親族まで標的にするんだから」


手段はいろいろとあった。


『ブラックリストに名前が載るよ』

『お子さんいるでしょ? まともな結婚とか

 出来なくなっちゃうよ?』

『確かに直接は関係無いかも知れないけど

 さぁ、世間はそう見ちゃくれないよ?』


違法スレスレなどというものではない。

完全に違法である。


ただ、少しでも弁護士や警察の匂いを嗅ぎ取ると、

一気に引く。

そういう処世術だけはわきまえており、

非常に性質が悪かった。


「でも社長や上司からの受けは良かった。

 売上を持ってくる人間が一番エライん

 だからね」


ある日、年配の上司の1人が会社を

1週間ほど休んだ。

休暇後、出社したその人は辞表を提出した。


「彼もなかなかの“ヤリ手”だったんだが……

 何でも息子夫婦が事故に遭い、残された孫を

 引き取りに行ったんだと」


“祟られたのでは”という噂が社内で

ささやかれた。


それ以前にも、社長が交通事故を起こしたり、

幹部の身内が病気になったりする事が、

ここ数ヶ月で続いていたのだ。


Kはそれを豪快に笑い飛ばし、


「くだらねぇよ。じゃあ俺はどうなんだ?

 あの人より成績良かったんだぜ?

 怖いなら、とっとと辞めちまえよ」


そう言って相手にしなかった。


それから3日後、彼は1人残業で会社に

残る事になった。


Kのような売上の良い社員は、社長自ら週に

何度か飲みに連れていくが、いつもノルマ

ギリギリの彼には無縁だった。


自分のエリアの照明だけ付けて、薄暗い

フロアにただ1人だけ。

早く書類を片付けて、何とか終電までには

帰りたいと思っていると、暗闇から音が

聞こえてきた。


「何か……“シュー、シュー”っていう、

 生き物の呼吸みたいな音だった」


護身用に身近にあった定規を持つと、彼は

その音のする場所へ近付いた。

ふと、彼はその足を止めた。


こちらから近付くまでもなく、音が向こうから

近付いてきている。

剣のように定規を前方に構え、その出現を待った。


龍がいた。

暗闇から姿を現したそれは、水墨画から

出てきたような長身をくねらせて、中空に

浮かんでいる。

予想外の侵入者に目を離せないでいると、

その手と口に何かくわえているのが見えた。


「首でした」


両手にはそれぞれ、中年の男女と思われる

首があった。

そして口の中にある首を見て、彼は

腰を抜かした。


Kの顔だった。

それは苦しそうにしていたが、龍がアゴに力を

込めると“ぐぷばぁあ”と言って血を吐いた。

飛び散った血が彼の服を染めた直後、そのまま

失神した。


「気がついたら翌朝でした」


Yシャツを確認したが、どこにも血の跡は無い。

だが家に帰る時間などなく、仕方なく彼はそのまま

勤務する事にした。

やがて出社時間になり、社員がゾロゾロと

入ってくるが、Kの顔が見当たらない。


「昨夜、社長に連れられた酒の席で、突然

 血を吐いたらしい」


元々が酒豪であり、彼自体健康を気にする

タイプではなかったためか、いつの間にか

肝臓の病状が進行していたようだった。

翌日、社内連絡でそのまま入院したと通達が

あった。


「その月で10人ほど辞表を出したよ。

 自分もその内の1人だった」


数年後、その会社が入っていたビルの近くへ行く

機会があり、その場所をのぞいて見た。

そこは広い駐車場になっていて、ビル自体が

キレイに無くなっていたという。



ありがとうございます!

『百怪』は日曜日の午前1時更新です。

深夜のお供にどうぞ。


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