92「事情」
・当時の関係性について
お寺で修行している知り合いの話。
闇語り70話『念』で、特別な愛着を持って
扱った物は、粗末にされると厄介な事になる、
という話があった。
「でも、人間と一緒ですよね」
ちょうど用事が一段落していた師匠を交え、
みんなで雑談していたのだが―――
ふとそういう話になった時、彼は質問してみた。
「それはまあ、言ってみれば個人間の話だから、
報復対象はハッキリとしているがな」
「?? と言いますと?」
師の話によれば、勝手に愛着を持って勝手に
捨てた物なら、それはその人間と物の間で
完結しているのだという。
問題は、家族や一族を対象としていた関係の場合、
少しややこしくなるらしい。
「ある一家というか一族の話で―――
神様というか、地元の産土神というか……
そういう存在を奉っていたそうなんだが」
その家族は親子仲が悪く、当代もあまり信心は
無い方で―――
子供が独立した後、ほとんど接点は無くなった。
子供の方は一人暮らしを始めた後……
家で奉っていた神を出来る範囲内で信仰し、
お供えも用意していた。
実家の方ではそんな事は一切せず……
しかし段々と好転していき、運に恵まれるように
なった。
一方、独立した子供の方は不運続きで
あったという。
困窮し、さすがに拝んでいる時間など
無くなり―――
子供の方でお供えや構う事がほとんど
無くなった頃、実家の方もまた傾き始めた。
その時、師が相談を受けたのだという。
「こう言ってはなんですが……
子供が拝んでいる分、全部実家へ?」
「そこまでは知らねえよ。
ただ昔のシキタリだと、『本家』が絶対で
最優先だからなあ。
でも昔の事情なんて知ったこっちゃないだろ、
特にその子供に取っちゃ」
周囲に『う~ん……』という空気が広まる中、
「それで、結局どうなったんですか?」
「そのあたりは結局こちらで調整した。
実家が拝み始めりゃそれでいいんだが、
それだけじゃ子供があんまりだろ。
『あまりに子供をないがしろにし過ぎる』から、
実家が不幸になったとか適当に言っておいたよ」
あっちは時代に追いついていないからな―――
そう師は呆れるようにつぶやいた。
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