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19「帽子」【挿絵あり】
山登りが趣味という年配の人から聞いた話。
登山といっても本格的なものではなく、
春から秋にかけて年4、5回くらい
登る程度のものだという。
ある時、偶然山のふもとに住む人と一緒に
登る機会があった。
その人は山の所有者ではないが、いわゆる木材を
管理しており、パトロールと山林の手入れを兼ねる
仕事をしていたという。
「まあそんなに高い山でもないし、
半日で登って下りてきたんだけど」
ふと気付くと帽子が無くなっていた。
どこで落としたのかと、また元来た道を
帰ろうとすると、同行者がそれを止めた。
「山で無くした物は探すな、
そんな事も知らないのかって注意された」
聞くと、基本的に山の中で無くした物は
そこの神様の物になるのだという。
もし探そうとすると、怪我をしたり
道に迷わされたりする目にあうと―――
「もし、見つかるまで探そうとすれば?」
そう質問すると困った顔をして
「アンタ、神隠しって言葉知ってるかね?」
それ以上の質問はしなかった。





