89「相違」
・価値観の違いについて
お寺で修行している知り合いの話。
人間の感情の中に、『恨み』というものが
あるが―――
たいていは何か侮辱したり、逆鱗に触れたり
した時に、それが返される。
しかし、何が琴線に触れたり、また怒られる
事なのか、人でも人種でも国でも文化や風習
その他で異なっていたりもする。
「人同士でもそうなのですから―――
人と異なる存在でも、やっぱりそういうのって
あるんですかね?」
その話を同僚同士で話していると、
『女人禁制』や『入ってはいけない日』などの
意見が出たが、
「そういうのはまあ、人間でも共通だろう」
そう言いながら師が部屋に入って来た。
男女別というなら、トイレや銭湯、施設別で
分けていたりするし―――
入ってはいけない日も、店の定休日や土日祝日等で
人間の都合で勝手に決めているだろうと。
「では個々の差ってあまり無いんですかね?」
彼が問い返すと、師は少し考えながら、
「参考になるかどうかはわからんが」
そう言って語り始めた。
あるところに、いわゆる無頼の男がいた。
粗暴で礼儀知らず、信心も当然全く無く―――
地元の神社仏閣でも、あえて罰当たりと言われる
ような事ばかりしていたという。
「しかし、年老いて衰えてくりゃあ―――
体も心も弱ってくる」
彼は、自分の今までの行いを後悔し始めた。
そこで今までの非礼を詫びるように、喜捨や
寄付を始めたようなのだが、どういうわけか、
その頃から身の回りに祟りのような、悪い事が
起き始めたという。
『こんなに反省しているのに、どうして!?』
ほとほと困り果てた彼は、神主のところへ
相談に行った。
そこで神主曰く―――
『あなたは仕返しを恐れているだけでしょう。
それは反省とは言いません。
神様が怒ってらっしゃいますよ。
お前と一緒にするな、それこそが最大の
侮辱だと』
つまり、仕返しをしてくるかも知れないと
恐れた事こそが―――
神様の逆鱗に触れたらしい。
「相手の気持ちになって考える事も大切だが……
それが知らず知らずのうちに、侮辱している
事もある。
それが人以外の存在なら、なおさらだ」
師の言葉に、全員がうなずいたという。
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