88「呼び寄せる」
・状況の模倣について。
お寺で修行している知り合いの話。
超能力、霊能力など―――
人は異能の力に憧れる事が多い。
しかしその一方で、そういった人の心境を利用して
騙したり詐欺を行う人間もいる。
「そういのは、何ていうか……
『何か』に触れないものなんですかね」
仏罰や祟りというものは、本来仏教には
無いもので―――
しかし何かしらの差し障りというか、
しっぺ返しのような事はあるのでは、そう彼が
説明に苦心していると、
「状況の再現―――
というものはあると思う」
そこへ、師が語りながら同室に入って来た。
彼と同僚の視線がそちらへ集まり、さっそく
質問が向けられる。
「再現、と言いますと」
「だからそういう連中は、霊的なものとか
祟りだとか、それに対応し得る力あると
吹聴しているんだろ?」
師の話によると、不安のある人間に付け込むの
だから、やれ供養不足だの一世一代の戦いに
なるだの、不安を煽る必要がある。
「当然、騙すにはそれ相応の仕掛けが必要だ。
相手が信用するような―――
非現実的、超常現象的な何かが」
そこで師は、かつてあったペテンの事を
話し始めた。
そいつのやり方は、風船を使ったもので……
様々な色の風船を数十個用意して床に転がし―――
さらに暗闇の中で強力な照明を設置して、除霊や
霊との交信を試みるものだという。
子供騙しのようなものだが―――
明かりがあるとはいえ、その中で風船が
バン!! と割れていき……
そこで『怒っている』『恨んでいる』と言うと、
依頼者はたいてい震え上がった。
「仕掛けがあるんですか?」
「様々な色の中に、黒い風船を混ぜておくんだよ。
黒は光や熱を吸収しやすい。
強烈な照明の光に当てられたら―――
それから破裂していく」
もちろん、他の色の風船から割れる事もあったが、
それはランダム性を演出する事になり……
逆に信憑性を増すという結果になった。
「でもそれがペテンって事がわかったという事は、
バレたという事ですよね?」
すると師は首を左右に振って、
「バレたというか―――逆だな。
『本物』に当たっちまったんだ」
ある時、そのペテン師がいつも通り風船を床に
転がして、照明のスイッチを入れた。
そして依頼人を前にそれらしい話をしていた頃、
風船が割れた。
一度に。
床に転がしていた数十個の風船が、全て同時に
『バン!!!』と割れたという。
さすがにペテン師も青ざめ、『除霊』を中断。
以後、表舞台から姿を消したという。
「インチキって事は、本人が一番わかっている
はずだからな。
それが目の前で本物を再現しちまったんだから、
そりゃ気が気じゃねえだろうよ」
ある種、再現というのは呼び寄せるための儀式でも
あるからな―――
そう師はしめくくったという。
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