85「流れ」
・伝達について
お寺で修行している知り合いの話。
水場やその流れといった、自然や原始的なものに
霊や死の概念が結び付けられるが―――
(闇語り28話(128話) 「水」参照)
では河川の近くはどこにいても、そういう
影響を受けやすいのか……
地形や遠近によってはどうなのか、という
疑問を彼が口にし―――
同僚たちと意見を交換し合っていた。
そこへ彼らの師が入って来たので、その質問を
してみたところ、
「伝播させる、というのは―――
呪いとか祈祷とかでは、割とポピュラーな
話ではある」
お祈りも呪術も人が作ったものである以上、
自然や本能的なものに依存、もしくは利用するのは
必然であり……
そのためにはたいてい、流れの『上流』を
抑えるのだという。
「下から上へは行かないんですか?」
「イメージとしちゃ無理なんだろう。
抵抗があるというか、そうはならないという
認識が強過ぎて」
その流れに逆らう、逆らえるというのは
相当な事であり―――
だから有利になりたいのであれば、川の上流を
確保するのだという。
「重力とか自然現象とか、昔の人はそこまで
わかっていて、こだわったんですかね」
「経験則上、っていうのもあるだろうな。
地政学でも、川の上流を抑えるというのは
普通にあるし……
孫氏の兵法でも似たような事は言っている」
生を視て高きに処り、
水流を迎うること無かれ―――
此れ水上に処るの軍なり。
師の言葉に全員が黙って耳を傾けていると、
彼はふと、
「では、下から上へというのは絶対に
持ち得ないイメージなんでしょうか?」
「そうでもない。
『鯉の滝登り』って知っているだろ。
それを成し遂げたら龍になる―――
流れに逆らうのはそれだけの事だという、
想像力くらいはあったはずだ」
急に身近な話になり、全員がうなずいていると、
「まあ鯉も―――
それくらいないと割に合わんだろうよ」
師の言葉に、全員が苦笑したという。
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