83「遺伝」
・受け継ぐものについて
お寺で修行している知り合いの話。
知らず知らずの内に、親に似るという話がある。
それは外見だけでなく、行動や習慣など―――
『教えてもいないのに』という類のもの。
「師匠はそういう話、聞いた事ありますか?」
離れた場所でお茶をすすっていた師匠に、
彼が何気なくたずねてみると
「まあ、因果とか―――
そういうのはあるんだろうよ」
乱暴に煎餅を噛み砕くと、師はお茶を飲み干し
語り始めた。
あるところに、飲む打つ買うの三拍子そろった
父親がいた。
戦後間もない頃の話で、性格は粗暴という
ほどでも無かったが、とにかくやる事成す事
家族に取っては迷惑であり―――
「酒が絡むと本当にダメって話だった。
ある時、子供たちが仕事の給料を持って
帰ってきたんだが……
ふと目を離したスキに、給料全部持って
飲みに行ってしまったらしい。
翌日帰ってきた時には全て使い果たしたと。
何でも、いい気になってその場の全員に
おごってきたんだそうだ」
この父親と一緒にいては共倒れになる―――
そう思った兄弟は、一番下の弟を別の家庭へ
養子に出す事に決めた。
その男の子は遠い親戚筋に引き取られたが、
可愛がられて無事成長し……
結婚した時にはすでに実父は亡くなっており、
彼らはようやく胸をなでおろしたという。
「それでな。
その養子に出した弟の家庭と兄弟は、
家族ぐるみで付き合いがあったそうなんだが」
その奥さんに聞くと、申し分ない旦那という
話だった。
しかし、一つだけ困った事があった。
それは、酒をめったに飲まないのだが……
飲んだ時に必ず『ある事』をするのだという。
「ある事? とは?」
「卵かけご飯ってあるだろ。
あれを酒の後にやるんだと」
まだ炊飯ジャーもそれほど普及していない時代。
当然、ご飯は冷や飯で、それに生卵をかけて
食べる姿は、とてもじゃないが気持ち悪く見えた。
「害があるってわけじゃ無いんだが……
問題は、それは実父がよくやっていた事らしい」
幼い頃に養子に出して、父親の顔も覚えていない
はずなのに……
その人はそう話していたそうだ。
「まあ血ってそういうものだからな。
お前らも気をつけろよ」
師匠のアドバイスに、その場にいた全員が
『どうやって?』と思ったが―――
それは口には出せなかったという。
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