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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
18/300

18「伝統」【挿絵あり】


「50や100は人の域、

 200年経ってそれ以上、

 千年以上は神の域」




文化財や歴史のある建築物の補修・修理を

行っている職人から聞いた話。




「私は手伝いだけですけどね。

 まだまだ若いし未熟ですから」




今年で50歳になると言っていたその男性は、

この言葉は師匠からの受け売りですけど、

と断りを入れた。




「それでも、すたれたり新しい技術に取って

 代わられたりして、それで絶えていくのは

 仕方無いとは思っているんですが」




ただ、何でもかんでも新しい物に変えたり、

つぶしたりするものではない、という事を

この前実感したという。




東北のある宗教系の建築物の修理を依頼され、

彼はその手伝いのため仲間と共に現地に向かった。




問題だったのは、中に飾られている物の配置で、

基本的には壁や床を修理した後、完全に元の配置へ

戻さなければならない。

昔は紙に記録したり、あらゆる角度から写真を

撮ったりしていたが、今はPCや動画形式で

把握する事が出来るから、楽になったそうだ。




「ただその時ね……

 どこかのTVクルーが取材させてくれって来て、

 師匠はそれすごく嫌がるんです。


 『素人は何するかわからん』


 って。

 あくまでも撮るだけで邪魔はしない、

 所有者にも許可は取ったので、と言うんで

 撮影を許して作業を続けたんですが」




それは最後の日に起こった。

天井、床、壁―――あらゆる修復が終わり、

中に物を戻そうという最終日、彼らが現場に

足を踏み入れると




「……全部戻っていたんです。

 ただね、一目見て順番がもう無茶苦茶。

 ただ端から並べ戻した、そんな感じ」




所有者に話を聞くと、例のTVクルーが最終日だと

いうのならもうとっとと戻して撮影しちゃおう、

と勝手に並べてしまったという。

そして彼らは撮影を終えると、そのままあいさつも無く

帰ってしまったらしい。




「バカ、が」




彼の師匠がそううめくようにつぶやいた。

残された彼らは一度全て外に出し、記録通りに

元に戻していく作業中、その連絡は届いた。




「例のTVクルーが乗った専用車が

 事故を起こしたって。

 でもねぇ、みんな『やっぱり』としか

 思っていなかったよ」




幸いにも死者は出なかったようだが、現場は

見通しの良い直線道路で、車は横転しており

原因はわからなかった。

結局は運転手の過失、という事になったらしい。




「伝統の良し悪しは何とも言えん。

 廃れるのも壊されるのも古来から

 繰り返されてきた事だ。

 ただしそれは、確実に“何か”に対して

 ケンカを売る行為だ。

 それだけは決して忘れるな」




この手の事態が起こると、師匠は必ず作業の締めに

そういましめたという。





挿絵(By みてみん)


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