78「返事」【挿絵あり】
・認識と確認について。
お寺で修行している知り合いの話。
怪談等ではよく、『見える』人の話が
出てくるが―――
幽霊や人外などは、こちら側を一方的に
見える事が前提となっている。
それについて、ちょうどそこにいた師に
彼は話を振ってみた。
「まあそうなんじゃねえか」
と、あっさり肯定された。師は続けて、
「問題は―――
どうやったら向こう側から見られないか、
気付かれないかって事で」
「問題とは?」
妙な方向に話が飛んだと思い、彼が聞き返すと、
「普通の人間は見えないっていうのなら、
向こう側も手は出さん。
意味が無いからな」
「意味……ですか?」
師の説明によると―――
自分の事が見えない・聞こえない存在なら
気にしても無駄だし、何もしてこないという。
「だが、自分の事が『わかる』のなら話は別だ。
それを介して、自分の願いや目的が叶えられる
かも知れないし―――
もしくは、自分の事を知られたくないと
思っていたらどうなるか」
『異質』な者が存在するだけで……
目をつけられるのは人間も人外も同じ。
利用価値があるなら当然、役立てようと
するだろうし―――
危険と見れば口封じも考える。
「だからそういうものの対応っていうのは、
すごく難しいんだ。
ちょっとでも気付かれたら、あちら側も
あの手この手で確認しようとしてくるだろう」
どういう手段で? と、彼と同僚が一同に
集まって聞くと、
「『見える』、というのは実はあまりよく
わからん。
何かされてもその気になれば無視すれば
いいだけだし。
一般的なのは『声』だな」
「声……ですか?」
彼が聞き返すと、
「よく昔話でもあるだろう。
絶対に振り向くなとか―――
絶対に『返事』をするなとか……
そうなると『見えている』事すら、
確認出来なくなる」
シンプルな手段で見る反応ほど、
一番警戒されずに確実だからな―――
その師の言葉に全員がうなずいた。
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