56「薄目」【挿絵あり】
・仏像の目について
お寺で修行している知り合いの話。
座禅や瞑想で両目を閉じて無心になる修行がある。
他にはリラックスしたり、または集中して―――
いずれにしろ精神統一を目指すという目的は
たいてい同じだが、
「あれって、仏像と同じように両目を
閉じなければならないんですかね?」
方法について彼が師に質問したところ、
「いや、完全に両目を閉じるのはあまり
無い事なんだが」
その場にいた全員が『??』となる中、
端末を取り出して、
「最近の物はともかく―――
仏像の多くは基本、薄目なんだ」
そう言って師は画像検索を見せてきたという。
確かに仏像には、半開きというか薄目の物が
多いのだが……
「では瞑想は、本来薄目でやるべきなんで
しょうか」
そう彼が聞き返すと、
「さてなあ。
本来、『開眼』が目的とされている仏教では
薄目というのはあまり好意的な解釈は出来ん。
ただ―――仏像に関してはまあ」
「仏像に関しては?」
師はトントン、と床をはじくように叩くと、
「逆十字、というのを知っているか?」
「?? キリスト教の逆を意味するものですよね?
確か悪魔崇拝とか」
すると師は手をアゴにあてて、
「あれは本来、聖ペトロ十字というんだ。
聖ペトロが処刑される時―――
キリストに敬意を表して、逆さ磔を望んだのが
最初とされている。
それが転じて、教会への抗議という意味にも
なるそうだが」
ほー、と全員が感心しながら聞いていると、
「だから仏像を彫る、作る際に……
完全に『開眼』した姿にするのは恐れ多い、
という理由もあったんじゃねえかな」
そう師は締めくくり―――
全員がうなずいたという。
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