55「条件」【挿絵あり】
・しきたりについて
お寺で修行している知り合いの話。
怪談話で付き物のお約束で―――
朔の日だけ(月の無い夜=真っ暗な日)とか、
正月だけとか、決まった期間しか現れない・
その現象が起きないというものがある。
「自分は、元旦に門を開けたら何かいて、
それで良い一年になるか悪い一年になるか
わかる、という話を聞いた事がありますね」
「私は―――
お盆の時だけ現れる、という話かなあ」
「僕が知っているのは……
数ヶ月に一度、決まった日に宴会が開かれて、
その時に妖が飲み食いに現れるとか」
彼を含め、口々に例を出し合っていると―――
そこへ師が現れた。
今まで話していた事を師匠に話すと、
「まあ―――
それぞれの家に、それぞれの事情や
因果があるだろうしな」
一般論らしい答えだな、と彼が思っていると、
「座敷牢って知っているか?」
話がいきなり予想もしていないところへ飛んだと
みんなが思ったそうだが、
「もし、何らかの事情で家の中に監禁されて
いた場合―――
人間なんだからストレスは溜まるだろうし、
声くらいは出せるだろ」
大声を出せば外にも聞こえるだろうし、
客が来た時は誤魔化せない。
それで完全に隔離はせず、決まった日だけは
外出や家族に会えると言って―――
大人しくさせるのは考えられる、と。
「それだけで、大人しくなりますかね」
そう彼が問うと、
「一生、誰とも会わせないと言うより―――
一年に一回でも、家族として、人として
認めてもらえるなら……
そこまで追い詰められているなら、なくは
ないだろう」
要はガス抜きだが、いつ終わるかわからない
孤独より、あるとわかっている楽しみがあれば、
案外耐えられるだろうとの事。
「まあ、昔は広い家も多かったでしょうし……
人一人閉じ込められるスペースもあったで
しょうから」
彼が話すと、周囲は納得したようにうなずいたが、
「一応、昭和25年(1950年)まで、
『私宅監置』の名称で、座敷牢は合法だった
けどな」
そう師に返され、全員が微妙な表情になった。
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『百怪』は日曜日の午前1時更新です。
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