52「スイッチ」【挿絵あり】
・切り替え・アプローチについて
お寺で修行している知り合いの話。
『触らぬ神に祟りなし』という言葉がある。
闇語りでも何度か出てきたが―――
余計な事に手出しさえしなければ、面倒に
巻き込まれる事はない、という意味で、
消極的な側面があるのは否めない。
彼が同僚と一緒にその話題で論議して
いると、師が入ってきて、
「そういえばそうかも知れないが―――
スイッチになっている場合もあるからなあ」
「スイッチ?」
全員がその言葉に振り向いて注目する。
師は続けて、
「トラップと言ってもいいものかも知れんが」
そう言うと師はある昔話を語り始めた。
漁が盛んな、ある港町があったのだが―――
ある時から、船上で気絶する者が続出した。
気を失った後、3日3晩高熱にうなされるの
だという。
どうしてそうなったのか、何が原因かわからず、
漁師たちは戦々恐々としていた。
しかし、生活のためには漁に出なければならない。
ある兄弟猟師もまた、海へ出る事にしたのだが、
兄の方が奇妙な行動を始めた。
まだ漁場に付いていないというのに、船べりで
何かを夢中になって引き上げている。
その行動は網を海中から上げているように
見えたが、その手にはロープも何も無かった。
「何してるんだ、オイ」
弟が兄に対して肩をグイッとつかむと、
そこで彼は我に返ったらしい。
聞くと、海面を見ていたらふと網の先っぽの
紐が見え、『引き上げなければ』と思ったの
だという。
「それが、スイッチという事ですか?」
「きっかけというか合図というか、
『関わらせる何か』なんだろう」
特に、相手から手を出させるというのは、
ある種の同意・合意のようなもので―――
より強力な効果が期待出来る、との事。
「でも漁師相手にそれは……
なかなか質の悪いトラップですねえ」
「『獲物』が興味を持つ媒体にするのは
基本だろう?」
師の返しに、全員が苦笑した。
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