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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
14/300

14「声」【挿絵あり】

実家が栃木県にある、初老の女性の話。

若い時に上京し、そこで後の夫となる男性と

知り合ったのだが、こんな話をしてくれた。




「夫の家は代々、東京生まれの東京育ち

 でしたから。

 江戸っ子というんですか。

 ですから、最初は相手の両親にすごく

 反対されましたよ」




とにかく、自分を田舎者と見る態度が常に

鼻についたという。

彼の方はそんな事は無かったが、

意図的では無いにしろ、気を抜くと何かしら

小ばかにしたような対応になっていたそうだ。




「悪気は無いんでしょうけどねぇ。

 今はそんなの残ってないんでしょうけど」




だが、ある時を境にそんな夫の態度が一変。

田舎者扱いする事も、江戸っ子ぶる事も

一切無くなった。




「結婚もして、私の実家にも何度か一緒に

 里帰りしてたんですよ。

 で、まだ子供が生まれてない頃でしたっけ……」




一緒に実家の周囲を散歩していると、また彼が

小ばかにしたような態度を取り始めた。

その時は実家に帰って気が強くなっていたのか、

彼女はそれに怒った。

最初はふざけ合い程度だったのだが、段々口ゲンカに

発展し―――




「そしたらね、いきなりあの人が『あ』とか言ったと

 思うと、辺りをキョロキョロ見回し始めて。

 で、私の腕をしっかりつかんで、実家まで急いで

 帰ったのよ」




実家に着くと、彼女とその両親に対して

人が変わったように接するようになった。

両親の言う事は良く守り、彼女に対しては常に優しく、

その変わり様は家族親戚一同驚いた程であったという。




「どうしたの?

 何があったの?」




東京に戻る日に彼女は聞いてみた。

聞くと、口ゲンカしている最中に声というか

音という音が全くしなくなった。

いきなりの無音状態で、その出来事に彼が驚いていると、




「そんなに言うなら、返してくれんか?」




と声が聞こえたという。

どこから? と聞くと、1人の声みたいだったけど、

ぐるりとあらゆる場所から聞こえたそうだ。

慌てた彼は彼女の腕をしっかりとつかみ、実家まで

逃げ帰った。




「後で父に話したら、『そりゃ俺のセリフなんだがな』

 と笑っていましたっけ」




もうすぐ孫が生まれるから、必ず実家で生ませる、

とシワの刻まれた顔に笑顔を浮かべ、意気込んでいた。





挿絵(By みてみん)

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