28「水」【挿絵あり】
・流れについて。
お寺で修行している知り合いの話。
川なり井戸なり、水辺は霊の話が多い。
別に溺死したりそこで死んだりしたのなら
わかるが、どうしてそこに現れるのだろう、
という話が同僚との話で出たらしい。
やはり水を求めるんじゃないか、生きるのに
最低限必要な物だから―――
とそれぞれが意見を出し合った時、彼らの師が
そこへ入ってきた。
「流れ、なんじゃねえかなあ」
ポツリと師匠が言い出したところに
よると―――
人間は基本的に生活の場を水場に求める。
遭難した時、川に沿って動くというのは
基本だし、また捨てたり浄化したりする、
最も基本的な流れは自然の水が行って
いるのだという。
「何の指針や方向を決める物が無い時―――
一番、進退を任せやすいというか、原始的な
『流れ』を求めるんじゃないかな」
三途の川も死の概念に直結しているし、
とにかく『流れに乗る』というのが本能的な
感覚であるのでは、と師は語った。
「だから水場っていうのは、憩いの場であると
同時に、死に近い場所でもあるんだ。
よく『引っ張られる』というだろ?」
誰かが、『どこが一番危ないですかねえ』と
何気なく聞いたところ―――
有名なアミューズメント施設の名前を上げた。
「特にお盆の時期は絶対に近付くなよ」
ざわめく彼らの前で、師はそう
締めくくったという。