25「姿形」【挿絵あり】
・記憶について。
お寺で修行している知り合いの話。
「幽霊に足が無い」と言われるのは、円山応挙の
絵からと言われているが―――
海外では基本的に足があるわけで、実際の霊は
どうなのか、という話になった。
「足はともかく、ぼやけるというのはあると思う」
彼と同僚たちの話だったのだが、そばで聞いていた
師がぼそりとつぶやくと、全員の視線がそちらに
集まった。
「ぼやける、と言いますと?」
「姿だって何だって―――
記憶というのは薄れていくものだろう。
自分の姿なんて、いつでも鏡を見ている
ナルシストでも無い限り、忘れていくモンだ」
よく輪郭がぼやける、という表現があるが……
細かいところまで正確に思い出せるかどうかと
なると―――
確かにその通りだ、とみんなでうなずき合っていたが、
その中の一人が疑問を呈した。
「ですが、戦国時代とか、鎧武者の霊とかも
聞きますよね?」
「そういうのは『崩れる』からなあ」
どういう事かと聞くと、死んだ時の姿がすでに
ボロボロであった場合―――
さらに劣化が進む事があるのだという。
「結局は『記憶』に引っ張られるらしいからな。
人の腐りようとか崩れようを知っていたら……
って事らしい」
そして師が離れた後―――
彼と同僚で、コスプレイヤーってどうなるんだろう?
という話で盛り上がったという。