21「誤爆」【挿絵あり】
・丑の刻参りについて。
お寺で修行している知り合いの話。
「ありゃ、もともと恋愛成就って意味だろ」
彼と同僚とその師の間で、
ワラ人形を夜な夜な、神社の御神木に
打ち付ける―――
という行為についての話題にいつの間にか
なったという。
「いやまあ、恋敵を……ならわかりますけど。
でも怪談とかに出てくるのは、たいてい
元カレや元旦那とかじゃ」
「誰かに渡すくらいなら殺すって意味じゃ
無いのか?」
あっさりと返す師匠に、そこにいた修行僧たちが
顔を下に向けた。
「だいたい、そもそもの目的は―――
『対象を呪い殺す』事じゃなくて、
『意中の人をそばに留めておく』はずなんだが」
「そうなんですか?」
すると師は彼と同僚を前に頭をかきながら、
「だって非効率的だろ。
いちいち恋敵を呪っていくのって。
呪いに頼るんなら、好きな人と一緒になりたいって
願うのが先だと思うが」
それもそうか、と一同顔を見合わせる。
「神道の方は詳しく知らんが、ワラ人形を釘で
打ち付けるのは、自分のそばに置いて動けなく
するって意味もあるし―――
頭に鉄輪をかぶるが、アレは鉄輪って読むんだ。
『離れられてはカナワない』って意味でな」
ダジャレか、と彼も思ったが、言葉に意味を込めるのは
ポピュラーな考え・やり方らしい。
「まあ今のイメージだと―――
そういう意味も成り立ちも考えないでやってるん
だろうけどさ」
「そういえば、どうしてこんな話になったん
でしたっけ?」
すると師は両目を閉じて、
「確か10年くらい前、よりによってウチの寺で
丑の刻参りやろうとしたバカがいてなあ……
それを思い出して」
そこにいた全員、どう答えたらいいかわからない
表情になったという。





