12「特徴」【挿絵あり】
とある専業主婦の方から聞いた話。
彼女は相手が4つほど年下で、
結婚したのは彼が20の時だった。
「親とか、周りを説得するのに苦労したでしょう、
とかよく言われるんですけど。
実は全然苦労しなかったんですよ」
彼女の実家は英会話スクールをやっていて、
それだけでも収入の心配はない。
逆玉の輿とまではいかなくても、当面の生活に
困る事はなかった。
「苦労したのは彼の説得かな。
“何とか俺もいっぱしの職につくまで”
って言って聞かなかったし」
しかし、彼女とその両親はすぐにでも、
とGOサインを出した。
彼の両親も大いに乗り気な彼女一家に
驚いていたが、そこまで言うのなら
お願いします、という流れになった。
条件として、ちゃんとした就職先を見つけるまでは、
英会話スクールを手伝う事がついたが、それも当然と
納得してくれたという。
「普通逆ですよねって笑われて。
でも、両親もわかっていましたから」
彼女の家では子供の頃、中型の雑種犬を
飼っていた。
少し日本の犬が混じっていたようで、
巻きタイプのしっぽ。
ただ、少し変わったクセがあったという。
「普通にお手をしてくれないんですよ。
父や母にはちゃんとお手をするのに、私だけ」
私が生まれる前からいたので、ちょっと立場的に
思うところがあったのかも、と彼女は話した。
しかし、彼女が3歳の頃にその犬は死んでしまった。
14歳、寿命だったという。
「それからは犬……ていうかペットは
飼う事はなくて。あっても金魚止まり」
ペットの記憶は薄れ、彼女も恋をするように
なった頃―――
結婚相手となる彼氏と出会った。
初めのうちは年下という事もあってか進展が遅く、
当時1人暮らししていた彼女の部屋に上がるまでは、
手をつなぐ事すらめったに無かったという。
部屋に入れて少し話し、お茶でもとテーブルの上に
彼女が手をついたその時。
「手の甲の上に、手を置くようにしてきたんです。
それまでそんな積極的にしてきた事は無かったので、
びっくりして」
しかし、見ると彼も驚いているようだった。
慌てて手を引っ込め、自分の手を見て驚いている。
そこで、もう一度彼女はテーブルの上に手を
置いてみた。
「そしたら、また同じようになって。
『え? え?』って目を白黒させてて」
それから、すぐに彼を実家に連れて行った。
腕をつかんで、半ば強引に。
紹介もそこそこに、その珍現象を両親の前で
再現して見せたという。
「な、何が」
ただ驚き焦る彼を前に、彼女の両親は
「娘をよろしくお願いします」
と頭を下げ、彼の混乱を加速させた。
「思い出したんです。あのコのクセを。
両親にはちゃんとお手を するんですけど、
私には、ついた手の甲の上に片足を置いたんです。
必ず―――」
今、彼女には一姫二太郎、2人の子供がいる。
いたって普通の子供らしいのだが、
「でも、どんな犬にも吠えられた事が
無いんですね。
猫好きなんですけど、逆に猫には
なつかれなくて……
これって、彼の子供だからですかね」
未だ彼と子供には、“事の真相”を話して
ないそうだ。