17「縁(えにし)」【挿絵あり】
・テリトリー・境目
お寺で修行している知り合いの話。
「以前、仏教の範囲じゃないと依頼を断った
事がある、と話してましたよね?」
「それがどうした?」
彼の質問に、流すように師が答える。
確かに、仏教と神道・その他は次元が異なるというのは
理解出来なくもない。
しかし、彼にはある疑問が残っていた。
「……でも、同じ人間なんだし神でも
仏( 幽霊とか)でも影響を受けるのは
同じなのでは?」
仏教徒であれば、神の影響は受けないのかと
言われると―――
その逆もまた然り。
「そうじゃねぇんだよなあ」
頭をボリボリとかきながら、師は面倒くさそうに
こう答えたという。
「“当事者”であれば対処するし、出来る。
だけど“他人”の場合はいろいろと制限がつくんだ」
例えば、もし師に何らかの祟りなり呪いが
あったとしても、害を成す者なら自分を守護する
“上の存在”が対処してくれる。
「だけどそれはあくまでも“俺止まり”だ。
そもそも、祟りや呪いを受けるような
“不注意”なヤツは、守護など受けられん」
「では他人の、それも仏教系以外のものは
対処不可能って事ですか」
それに対し、師は首を左右に振った。
「そう結論を急ぐな。
“俺自身”ならば対処は可能と言ったろ?」
―――わからない。
他人はダメ、自分なら可能。
そうとしか言ってないのでそれ以上の理解が
彼の頭の中で止まる。
「だから、しがらみとか立場上とか、手を出せない
事もある。
しかし、対象が俺になったら話は別だ」
ターゲットを自分に移す、もしくは運命共同体となる、
という事らしい。
「そもそも、仏教においてはあらゆる汚れや念などを
一身に集め、それを清めるのも修行の1つだ。
最近はどれだけの者がやっているかは知らんが」
一息付いた後、師は彼の顔を見て
「……ダメだな。
移した途端に力尽きそうだ」
失礼な感想で締めくくったという。