16「混血」【挿絵あり】
・人外の者とのハーフについて。
お寺で修行している知り合いの話。
「化け物……というか妖怪とか人間以外との
混血、か。
普通に、こちらが思っている以上に
いるんじゃない?」
「いますかね?」
彼とその同僚が、人外の血を引く者の話を
していたそうだが―――
百怪でも恋愛の件でいくつか出てきたが、
基本的に彼はその手の話は半信半疑だという。
「まあ気に入ってしまえば、な。
もし“血”を守ってきた一族がいるとしても、
今の人間が何十万年と交配を繰り返してきた
結果だからな。
駆け落ちとか人間の世界でも普通にあるんだし、
人ならぬ者との悲恋話なんてもう伝説や神話レベルで
ゴロゴロしてるだろ」
話に割って入ってきた師が珍しく軽い口調で語る。
そこでこの世界の年長者たる師に質問をぶつけて
みたという。
「見かけた事ってあります?」
「オリンピック見た事あるか?」
「ん? そりゃありますよ」
「確実にあの中にいるよ。
“あ、コイツだ”
っていうのも見た事ある」
オリンピック選手が?
疑問と不信を隠さず彼が口と顔に出すと、
「だってどう考えたって“人のレベル”じゃないだろ、
あれは。
努力とか才能とか、明らかに“一線越えた”感じ。
他にも生まれつき計算が無茶苦茶早いとか、
異常な記憶力があるとか」
「ああ……つまり
“先祖返り”って事ですか?」
その問いに彼の師はため息をつきながら、
「今のご時世、そりゃ一代目ハーフはおらんだろ……
だけど人類史だけでも数千年、誰でもどっかこっかで
“血”が混じってるだろうしな。
ただ、余りにも血が薄まっているんで、気付かない
だけだ」
「時々、先祖返りとかで発現する、と。
運が良ければ、誰でも人以上の力が目覚める
可能性があるって事ですか」
それは世の中の秩序としてどうなのか、
と思うと同時に否定出来ないある感情が
彼に生まれてきたという。
「うらやましいか?」
「うらやましくないと言ったら
ウソ吐きになりますから」
師はポリポリと頭をかきながら、
「それなりのリスクもあると、俺は思うがな」
「リスク?」
「障がい者……あるいは奇形か。
遺伝子だの何の言ってるが、まだ100%
完全に発現する方法は見つかっていない。
所詮は確率の問題だ」
「……それも
“先祖返り”だと?」
「さてね。
ただ、オリンピックや各分野で天才と言われる
人物の発生率と障がいや奇形の発生率の比率を
調べてみたら、面白い事がわかるかもしれんぞ?
昔から“紙一重”って言われているものだからな」
「……笑えませんね」
彼と師はその後、互いに申し合わせたように
お茶を飲み干したという。





