10「九十九神」【挿絵あり】
・物に念が憑く事の考察。
お寺で修行している知り合いの話。
九十九神という言葉がある。
付喪神ともいうが、こちらは読みを当て字に
したもので、九十九が正しいらしい。
古くなった物には神(もしくは霊魂)が宿る。
中には妖怪も含まれるらしいが。
神道の考えで仏教ではない。
その事について彼が師にたずねると、
「そのものの意思というより、
“念”が宿る、というのならまだ理解出来る」
との答え。
それは仏教的な考えで? と聞き返すと、
「そんなところだ。
それに、人間は常に一定じゃないだろ?
仕事やってる時、家にいる時、
遊んでいる時、趣味の世界にいる時。
だからそれらを一度リセットするために、
“無”を目指すんだ。
座禅やら瞑想でな」
特に一心不乱、一点集中の場合、物に念を
込めやすいらしい。
「だから、魂や神が宿るより
“その時のその人間の念”が
反映される、ならまだ話がわかる」
「例とか経験とかあります?」
また余計な事を言ったか、とも彼は思ったが、
師は口を閉じてしばらくした後
「実物は知らん。
ただ、ある年配の技術者からこんな話を
聞いた事はある。
『理論上完成しているのに、現実で動かない
物がある。
それは魂を込めていないからだ。
魂が入っていないからだ』
と」
とある大手メーカーの技術者で、
その世界では知られた名前だったそうだ。





