09「タブー」【挿絵あり】
・神域にある者がもっとも嫌う理由・行動。
お寺で修行している知り合いとその師の話。
闇語り05の「交渉」で、神、もしくは
それに次ぐ者の怒りに触れても、
よほどの事が無ければ交渉可能、との話があった。
「では、交渉不可能レベルの事って何ですか?」
前回言っていた例外、
“気に入られた”ケースを抜かしてである。
師は親指と人差し指をくっつけて輪を作り、
「これだ」
「お金……ですか?
ていうか、神様にお金って必要なんですか」
首をぶんぶんと左右に振り、
「そんなわけねぇだろ。
“自分を金儲けに利用するな”って事だ。
それが最も嫌う行為だからな」
彼の師の話によると、伝聞や書物によるものなら
まだいいと言う。
「最悪なのは、最初から金儲け目当てで現地入り
したり、取材したりする場合だ」
師の知っているケースで、よりによって“京都”を
ある商売の企画に選択。
そこでの歴史をモチーフにするため、泊りがけで
現地取材まで行った人間がいた。
「……どうなりました?」
「スタッフにいろいろとあったらしい。
火事、交通事故、身内の不幸、そりゃもう
いろいろとな」
師に泣きついてきたらしいが、
“仏教の範囲じゃない”と
知り合いの神社に紹介状を書いて頼んだという。
「こっぴどく怒られたと言っていたがな。
“半端な気持ちで現地へ行ってはいけない。
神様に気付かれます”
って、散々おどかされたらしいが」
ふう、とため息をつく師に
「まあ、収まるもんなんですね」
「そうとも限らない」
即答で否定した師に、理由をたずねると
「その企画考えついたヤツ、
それを別の会社に売り払ったらしいんだ。
……多分、まだ終わらないよ」
諦めとも笑いともつかない表情で、彼の師はそう
言葉を終えたという。





