07「神もどき」【挿絵あり】
・仏道の修行や修養の雑考。
お寺で修行している知り合いの話。
彼がまず、仏門に入った時の事。
その時、師に最初に言われた事は、
「まず理想の仏(自分の目指す理想像でも良い)
を考えろ」
であった。
慈悲深く、知恵があり、時代の流れに対応する事も
染まる事も無い―――
“そういうものなのだろう”
という、明確では無いが思い浮かぶ理想の
『仏』というものはあったらしい。
それを突き詰め、至った理想像を師に告げると、
「では、それを徹底的に壊せ。
跡形も無く」
一度自分が持つ理想像を破壊し、そこから(ゼロから)
全く新しい理想を作り上げる。
どうもそれが“基本”であり“初歩”であるらしい。
その時の彼はまだ若かったので、欲や色恋などに
ついても聞いてみたのだが、
「よほどの高僧になるつもりならともかく、
禁欲的な修行など百年早い」
とたしなめられた。
「下手に“神もどき”になられても困るしな」
02の「力」でも聞いた言葉だが、その時はまだ
知らなかった言葉なので、彼は興味を持って
くいついた。
師は初めは渋そうな顔をしていたが、
「まぁいいか。
真似して出来る事じゃないし」
そう言って説明し始めた。
「まず、食べる物に興味が無い、
もしくは何でもいいっていうのは、
ある意味悟りだ。
着る物に関してもそうだ。
執着しない、一着でもいい、それらは
無欲とも言える。
絵はどこまでいっても絵。
生きている異性は縁が無い、そうと諦めている―――
もしくは達観している。
それは何十年と修行している者でも、
たどり着くには難しい境地だ」
“ニート”“引きこもり”という言葉が社会的に
流行する、少し前の時代だったという。





