05「交渉」【挿絵あり】
・“神隠し”について
お寺で修行している知り合いの話。
一昔前、よくTVや雑誌などで行方不明者を探す
企画が行われていた。
超能力者や怪しげな人物が道具やら透視やらで、
探していくのを覚えている方も多いと思う。
「ああいうのは、本当は
“交渉役”がやるんだが」
その会話をしていた時、彼の師が割り込んできた。
聞くと、昔はきちんと行方不明者専門の探し役がおり、
何日、または何年も帰ってこない者がいると、
出番となった。
「何で“交渉役”なんですか?」
探すのだから、意味合いが少しおかしいのでは、
と問うと
「交渉役っていうのは、坊主や神主、
いわゆる“神職”のやつらの事だ」
行方不明の原因は9割方、人間、つまり誘拐などに
よるもの。
しかしそれでも解決出来ない場合、最後の神頼みとして
行方を探してもらうという。
「本人が自分の意思でどこか行っているのなら、
探しようがあるし交渉はない。
問題はそうでない場合だ」
何かの神域に入ってしまった、もしくは何かの怒りに
触れた、そのようなケースの時に返してもらうよう
“交渉”するのだという。
「帰ってこれるんですか?」
「まだそっちの方が望みがある」
タブー、または機嫌を損ねた程度なら、謝罪の方法と
要求を聞き、その実行を約束する。
よほど酷い事をしてない限りはそれで済むのだという。
「一番望みが薄いのは、
“気に入られた”
“魅入られた”場合だな。
これはどうしようもない」
色恋が一番人の話や意見聞かねえからな、
師がそう言うとその場にいた全員が苦笑い
したという。





