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百怪  作者: アンミン
百怪・怪異、不可思議
100/300

100「家族」【挿絵あり】


「田舎の祖父が話してくれたものだが」




故郷が中国地方の方から聞いた話。


祖父が子供の頃は、まだ山の中で生活を営んでいる

者がいた。

林業と狩猟を半々でやっているようなサイクル

だっという。


彼には妻子がいたが、ある時病気で2人とも

死なれてしまい、山奥に1人で住んでいた。


春と夏には魚や山菜を、秋と冬にはキノコや

獣肉などをふもとに持ってきて、米やお金に

換えて日々を過ごしていた。




「だから、そういう事情もあってかいつも

 暗い顔をしていたそうだ。

 ところが、いつ頃からかすごく明るく笑うように

 なっていたんだと。

 どうしてか、祖父の親父がたずねた

 そうなんだが―――」




彼は答えた。

山の中でいつものように狩りをしていたが、一匹の狐が

ケガをしているのを見つけた。

周りを伺うと、その子と思われる子狐が一匹、

距離を取って心配そうにしていた。




「何かの縁だろうと思って手当てしてやったらしい。

 そうしたら、翌日から彼の家に2匹で現れるように

 なったって」




身寄りのいない彼に取って、その狐の母子は

家族同然になったという。

だから、今は寂しくないんだと笑うように

なったそうだ。




「そんな様子だからさ。

 次第に、そいつと顔合わせる時は、

 『狐は元気か?』って聞くのが

 あいさつみたいになったと」




しかし、そんな彼が幾度目かの冬に、

一度もふもとに来ない事があった。


祖父の父も含め、心配した人たちが快晴の日に

山の中へ捜索に向かった。

半日ほどで男の家は見つかり、中から男の遺体が

出てきた。

死因は病死。

流行り風邪をこじらせたのだろう、というのが

医者の見解であった。




「ただ、家の中を見るとわからない事があって」




綺麗に洗濯、整理された衣類があり、その中でも

女性と子供の物と思われる衣服は、1人暮らしだった

はずの彼の家の中では目を引いた。


それだけでなく、食器や布団も3人分、長年使われた

形跡があり、みんな不思議がった。




「死に顔は非常に穏やかだったと……

 そう父が話してくれた事が印象に残っている、

 そう言ってたっけなぁ」




シワの張った顔に、さらに深くシワを刻むように、

彼は目を閉じた。





挿絵(By みてみん)

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