望んだものは
pixiv内の字書きさん達によって開催された第4回1000字コンテスト投稿作品です。 出されたお題を本文に入れて1000字以内で創作を仕上げるというコンテストでして今回のお題は「天秤にかける」でした。 1話目は投稿した作品で、2話目は投稿前の字数オーバーになってしまった元となる作品です。 読み比べてみて頂ければ幸いです。
色々な国で開催される祭りの期間に興行しながらまた別の場所に移動していく移動遊園地というのがある。その中の一つに風変わりなテントがあった。何が風変わりであったのか?それは、そのテントが「普通の人には見えない」からであった。
「おやおや、ここに入ってこられるとは。あんた、よほど何か強い願いを持ってるね?」
テントの中のフードを目深に被った女が中に入ってきた少女に声をかけた。少女は呪い師の前に置かれた椅子に座ると黙って頷く。
「ここを見つけて中に入ることが出来る者は恐ろしく強い願望――そう、自分の命と天秤にかけても叶えたい願いを持っている人間だけだからね。」
占い師はそう言って視線を目の前にある水晶玉に移す。
「それじゃあ呪いをはじめるよ。お代はわかってるね?願いの大きさに応じてあんたの残りの寿命をもらうことを。願いが大きければ大きいほどあんたの寿命は減っていく。もしかしたらこの場で死ぬかもしれない。それでかまわないんだね?」
少女は顔を上げずに再び頷く。
「それじゃ教えてもらおうか、あんたの願いを。」
少女はここで初めて顔を上げ、呪い師の顔を見て答えた。
「私の『名前』を取り戻したい。いや、返してもらうぞ!私の名前を――」
「……やっと取り戻せた。全く、生まれ変わり死に変わり、ここに辿り着くまで長い時間かかってしまったわ。」
呪い師がフードを外してやれやれ、といった声を出す。フードの中から現れたのは妖艶な美しい女性で、その女の前にはあの少女の死体が転がっていた。
かつて、この星は人間ではない強力な魔力を持つ古い種族が支配していた。だが、ある日彼らは世界の表舞台から姿を消す。彼らの魔力の源が彼らの持つ「名前」だと人間に知られてしまい、それを奪われてしまったから。
そして今その名前は本来の持ち主に戻った。古い種族は輪廻転生を繰り返し、長い時を経て己の名前を奪った人間を捜し当てたのだ。
呪い師の身代わりとして死んだ、かりそめの自分であった少女の遺体を消し去ると女は椅子に座りフードを目深に被る。
ここにいればまだ見つからないかつての同胞はそのうちやってくるだろう。そして全ての同胞が揃ったら……その時は私達とお前達、どちらがこの星を支配するに相応しいかを天秤にかける時。人間よ、覚悟しておきなさい?