2話 Jの友情
女子高生、神田順子の体に移動させられた男、鴉間守は、人間の魂を扱う生死管理局から派遣された「朝倉奈々」と共に、状況打開のための行動を始める。
移動元の体について朝倉に調べさせている間、移動先の神田順子についての情報を集める為に、彼女が通う学校に通う。
そこで守が見たものとはーー
「おはようございまーす!」
たとえ自分の学生時代でも決してやらない、よくドラマでしかないクラス全員に向けた挨拶。
だがこれは仕方がない。神田と仲がいいクラスメイトが誰か分からない以上、全員に挨拶をしてその反応から仲のいい人や入っているグループを見分けるしかない。
......
「ん? 反応無し?」
「ああ! とりあえず座ろ! 後5分でホームルーム始まるよ!」
友人第一号に急かされて席に座る。というか危なかった。俺、神田の席わかんないし。
座ったのは一番後ろ。やった。寝られるからラッキー。高校の授業なんてもう久々だから不安でしょうがなかった。聞いてる振りをして寝よう。
ガラガラガラ
ホームルーム1分前くらいで5人組の男女が慌てて教室に入ってきた。至って真面目な雰囲気なだけに、守の目に止まらず、再びふて寝した。
しかし、
「おい! あいつ....!」
「わざわざいじめられに来るなんて、案外Mなんじゃね」
「まあ、このクラスでじゃ終わってるし、もっとおもちゃにしてやろうよ」
その身に降りかかる危険に、まだ気づいてはいなかった。
〜〜〜
授業を全て寝てやり過ごした神田(守)は昼休みが来てもまだ寝ていた
「順ちゃん、順ちゃん! もう昼休みだよ!」
「おお、そうか。じゃあ昼飯食べに行こうぜ」
「ひるめし....? いこうぜ....?」
(しまった! 体に慣れたせいで女子高生の設定忘れてた! 早く軌道修正しないと)
「ちょっとドラマに感化されちゃった....それより、お弁当持ってきてないから食堂に早く行こっ! 」
「う、うん!」
最初の反応は変だったが、元々友達が少ないだけだったんだろう。学校では何にもなくてよかっーー
「おい! そこのゴミ! 今日はゴミママに何円貰ったんでちゅかー(笑)」
「ゴミが食べるものはないんで、ウチらに寄付して下さーい」
ん? なんか騒がしい奴がいるな。 喧嘩なら他所でやってくれよ。守は廊下に出ようとした。
だが、それは止められた。発言者が守にチリ取りをまるでブーメランのように投げて来たからだ。
避けることも出来たが、そういうのは後のお楽しみに、ということにしておこう。
ガンッ!
頭に衝突したと同時に、少しよろめく演技をした。でも、結構痛いぞ! というか何でチリ取り
「ちょっと! もう止めてよ! 無視だけじゃ不満なの!」
あの....無視だけって、神田無視されてるんですか!?
「うるせえ。 この粗大ゴミが話すゴミだからそれに合わせて対応してるだけだ。てかお前、1回裏切った癖に偉そうに守る立場に立ってんじゃねえよ」
「う....それは」
裏切った....守はよく分からなかったが、彼女の反応を見て、何となくそれが図星なのだと悟った。だからといってどうにもしないのだが。
「まあ良いわ、別にお前には興味ないから笑。でも勘違いすんなよ。お前はだーいじなゴミ友を捨てたゴミ屑だから」
さっきからゴミゴミうるさい。罵りたいだけならもう行こう。
「ほら、行くよ」
「え?でも」
躊躇する彼女を引っ張って教室のドアに手をかけた。
バシーィーン!
は? え? 今、しばいた!? そんな! 親父にもぶたれたことないのに!!! これ言ってみたいなー。今は無理だけど。じゃなくて!
こいつら、これだけのことをクラスメイトが大勢いる前で....タダじゃすまないーーと考えた所でそれは間違いだと守は思い直した。
神田はクラスメイトから既に無視といういじめを受けているからだ。
現に、クラスメイトは一部がこちらを見ているだけで、ほとんどは気にも止めずに弁当を食べている。
(うわ、こいつらサイコパスすぎだろ。最近の若いのって怖いな)
「ちょっと! ホントにもうやめてよ! こんなことしたって意味ないよ!」
「いじめ反対の定型文みたいなセリフ言ってんじゃねえ! もうムカつくからお前もターゲットにしてやる。放課後までに楽しいの考えとくわ。今日はせいぜいスタミナつけてろよ!」
そう言って5人組が去って言った。クラスは何事もなかったかのように時間が進んでいる。
俺と彼女はその空気に追い出されるかのように教室を出た。
幸い500円は取られずにすみ、購買でパンを買って屋上に逃げた。まだ昼休みは15分ある。話すには十分な時間だった。
「....屋上が空いてる高校なんて珍しいな」
「順子ちゃんごめん!」
彼女が謝ってきた。あの裏切ったとかいう件だろうか。
「....いきなり謝られても、よく把握してないんだけど」
「ううっ....それは、私があの時」
「じゃあさ、次の授業サボって話をしようよ。どうせいなくたって、あの感じだと大丈夫でしょ。私も、あなたと話したいことあるし」
彼女は真面目なのか、昼休みが終了するにつれて、どうしようとか、いいのかなーとか不安気だったが、チャイムがなって10分経つと、逆に楽しんでいるようだった。
何か青春っぽくていいな。いや、これも神田の意識の影響か? まあ、何でもいいが。
そして、最初は守から彼女に神田の状況について説明した。
だが、32歳の男の意識が女子高生の体に移動した。と言っても信じてもらえないことは明白なので、とりあえず頭を強く打って記憶が一部欠落してしまったことにした。
自分が神田順子であることは分かる。だが、それ以外の自信の立場や対人関係などの記憶が失われた。と。
彼女はその時は意外にもそれに対応して、自己紹介をしてくれた。
名前は「立花梨乃」。神田が小さい時からの友人で、幼なじみとも言えるくらい付き合いは長いらしい。小、中、高校と一緒で、立花にとって神田は唯一無二の親友だという。しかし、
「辛い質問をするけど、立花さんが私を裏切ったような発言が飛び交っていたけど、あれは何なの? だとしたら、どういうことか説明してくれる?」
「うん、それはね、さっき私たちに暴言を吐いてきた「西崎」っていう男子がきっかけなんだけど」
それは、神田と立花が4月に2年生に進級してまだ3日の放課後に起きた。
「おい! みんな聞け! こいつの母親、デリへル嬢やってるんだ! それで調べてみたら、こいつも母親と一緒にやってるらしいぜ!」
学校の委員会活動やクラスの係を決める話し合いの途中で、担任以外の全ての生徒がそこにいて、それを聞いた。
神田はもちろん否定をした。しかし、それだけでは終わらなかった。
「証拠もあるんだよ! これを見ろ」
西崎は、何枚かの写真をばらまいた。それには、派手な格好をした神田の母親らしき人物と、制服を来ていた神田らしき人物が、夜に性的サービスをする店に入っていく後ろ姿を撮影したものだ。
しかし、ここでも神田は否定した。これはあくまで後ろ姿が自分と似ているだけで、自分ではない。と。
確かに、これだけでは決定的な証拠にはならない。何故このようなことをするのか分からない神田は、西崎に激しく糾弾したという。
「そうか、言われて見ればそうかもしれない。でも、これを聞いたらどうだろうな」
そう言って取り出したのは、レコーダー。西崎が、スイッチを押した。
「えー? 順子? あの娘はぁ、私に似てアレがすごいからぁ、これから将来有望かも(笑)」
西崎がスイッチを切った
「うそ....何で、何で!?」
「という言葉を認めるんだな」
「違う! そうじゃない!」
「何が違うんだ! 君の名前を言ってるんだから君の母親に間違いない。ここで言っているのは性的サービスのテクだ。これが全て、これが証拠だよ」
呆然とする神田に、西崎のグループの2人の女子が追い討ちをかける。
「うわ、ウチらのクラスにこんなクソビッチがいたなんて、気持ち悪過ぎ」
「クソ以下のゴミだよ。何か空気が臭いんですけど。勉強出来なーい。集中出来ないんで早く消えて下さーい」
訳の分からない根拠で意味のない印象操作をしてくる連中に対し、神田は激烈に反対し、クラスメイトにも呼びかけた。
「みんなも何か言ってよ! こいつら、おかしいことにばっかり言って!!!」
............
しかし、クラスからは、何の反応のなかった。それどころか、
「あれを聞いたら、どうだかな」
「意外と図星なんじゃない」
心ないひそひそ話が聞こえる。もう限界だった。神田は堪らず教室を飛び出した。
今まで家で不遇な扱いを受けてきた神田にとって、学校は救いの場合だった。実際、高校一年生の時はクラスの中心とはいかないものの、3〜4人程度のグループに属してそれなりに楽しい生活を送れていた。
だというのに、2年生に上がった途端に、一体私が何をしたんだ! これからの自分への扱いの変化が目に浮かぶ。
でも、それよりも、何より悲しく残酷だったのが、
唯一無二の親友と思っていた立花梨乃が、何も動いてくれなかったことだ。
友達に見返りを求めている訳ではない。だが、もし私が梨乃に危機が及んだら、自分への二次災害など関係なく助ける。きっとそうする。
いじめられたらどうしよう。という恐れは、想像よりも大きく影響を及ぼす。
たとえ互いの友情を確認し合う仲も、その深さを見透かし、いとも容易く壊してみせる。
実際に、あの件の後に、神田のいたグループは崩壊した。
梨乃は酷く元気を無くした様子だったが、神田が不登校まで神田と関わることはなくなった。
その他のクラスメイトも、自然に神田を無視し、その後は一緒になっていじめるようになった。
「ううっ....私が、わたしが、あの時順ちゃんの味方をしていたら、それで、その後私に謝る勇気があれば....」
「あるじゃん。勇気なら」
「え?」
たとえ、その時出来なかったとしても、勇気が出なくても、出来ないやつはいつまで経っても出来ないままだ。
悔やんで、悩んで、苦しんで、完全な正解じゃないとしても、自分の答えをしっかり出す。これが一番大事で、俺がそれに気づいたのは、社会人になってからだった。
俺はなんてつくづく、自分が恵まれた優しい世界で生きてきたんだろうと思う。
俺は神田順子じゃない。もしかしたら、立花梨乃をどうこうする権利も無いかもしれない。でも、一人の人間として、この娘の思いに、答えなくてはいけない。
「記憶には無いけど、あなたが私の親友だったなら、私は多分、物凄く傷ついた。でも、私の為にこんなに悩んでくれて、まるで自分の事のように涙を流して、今は、私の一番の味方になろうとしてくれている。こんないい娘、手放すほど私は馬鹿じゃない」
彼女はまた泣いている。結構泣き虫かもしれない。
「もう一度ちゃんと、あなたの想いを聞きたい。そしてまた、親友になりたい。この想いは、きっと、記憶が戻っても、絶対に変わらない! だから、だから!」
「あううっ....順ちゃん、じゅんちゃあああん!!」
彼女に思いっきり抱きしめられた。俺は泣いていた。でも俺には目頭が熱い感覚はなかった。俺じゃない。身体が泣いていた。だからこの涙は、
正真正銘、神田順子のモノだ。
「順ちゃん! あの時、何も出来なくて本当にごめんなさい! もうどんなことがあってもこれからはずっと、順ちゃんの味方だから! だから、私で良かったらまた、」
「私を親友にしてください!」
俺はもう、鴉間守と神田順子、どちらのつもりでこの返事を「はい」と受け取ったのか、分からなかった。
ただ、俺は、こんな美しい友情があることへの感動に心を奪われ、記憶を越えて抱擁するお互い肩を、目頭を熱くして、濡らした。
再び落ち着きを戻した時、ちょうどズル休みの終了を告げるチャイムがな、屋上の爽やかな風に涙を拭かれながら、2人は手を繋いで教室へと歩いた。
しかし、楽しい時間は、一時終了にかかる。
あっという間に放課後になってしまい、俺と梨乃は例の5人組に囲まれていた。
「ちゃんと食べたか(笑) まあ今から全部吐くことになるかもだけど」
「てかお前ら、4時限目サボっただろ。ダメじゃん。ゴミがさらに堕ちたら何になるの? 」
............
色々言いたいことはあるが、いこれからいろいろ考える為に、今日は、黙って耐えることにした。
「....黙りやがってつまんね。まあいいや、言ったよな。今日はお前をいじめデビューさしてやるよ」
梨乃が西崎に軽くデコピンされ、俺達は職員室から一番遠いトイレに連行された。そして、着いた瞬間
ドカッ
「うっ!!!」
俺は、いじめ女子の一人におもいきり蹴られて転ぶ。この体だとかなり痛いな
「いつ仲直りしたか知らないけど、そういうのくっそウザいし目障りだしムカつくから」
「今日は、順子ちゃんが大好きな梨乃ちゃんに自分が裏切ったことを思い出して貰おうかなー」
「ちょっと! 止めてよ! 殴るなら私に」
その叫びは意味をなさず、梨乃はいじめ男子に取り押さえられ、その目の前で、いじめ女子が俺をボコボコにする。
目立たない腹を主に狙い、少し吐きそうだったのを何とか耐えていた。だが、ただ普通にいじめられている自分はまだマシだ。
「ほら! 見ろよ! こいつが何でこんなことになってるか分かるか! お前が! 裏切って関わるのを止めたからだよ」
「ううっ、もう止めてぇ」
「じゃあ何であの時言わなかったのかな〜。いじめられるのが嫌なら、お前だけでも声をあげていればよかったんじゃないか? どうなんだよ!」
ビシィ!
梨乃が叩かれ、崩れおちた。こいつら容赦ないな。
最後は、2人仲良くホースで水をかけられ、飽きたのか引き上げて行った。
「ううっ、ごめんなさい。ごめんなさい。順ちゃんがこんなに辛かったなんて。私、ホントに最低だよね」
「その事はもう解決しただ....でしょ。悔やんでもしょうがないし、これからどうするか考えないと」
「うん、順ちゃんは強いね。記憶まで失ったのに」
まあ、今までの神田順子なら、耐えられるもんじゃないだろう。ある意味記憶を失った(ことにしているが)方が、冷静になれてよかったかもしれない。
そう伝えると、また抱きついてわんわん泣かれてしまった。やっぱり泣き虫だ!
ビショビショの2人組が歩いて帰る姿を見て変な目で見る人がいたが、そんなことは、この2人にとってさほど重要ではなかった。
神田の家は入れないため、梨乃の家にお邪魔させてもらうことにした。
「ただいま」
「おかえりってあら! どうしたの! そんなにビショビショになって....って順子ちゃんじゃないの! ああっ....早くこちらにいらっしゃい。お風呂に入っておいで」
あたふたしながら、俺と梨乃をお風呂場へ押し込んだ。よっぽどパニックだったんだな。
「ごめんね。私のお母さん、いつもそそっかしいんだ。まあ今は仕方ないよね。さっさとお風呂入っちゃお」
そう言って、梨乃が脱ぎ脱ぎし始める
「ーーーー!!!!!!」
「ん? どうしたの? 順ちゃんも一緒に入るでしょ?」
うわあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!!
いくら体が女だからって、心は男、鴉間守だ! ついさっきまで結婚を誓い合った女性がいるというのに、これは、何か嫌だ!!!
「いや、先入ってきてよ。私待ってるから」
「え? ああ、私のお父さん医者で、それなりに裕福だから家も広いし、お風呂も結構広いから大丈夫だよ。」
そういう問題じゃないんです! こっちの問題なんです!
「順ちゃんとは長い付き合いだし、一緒にお風呂に入るのだって初めてじゃないから大丈夫だと思ったんだけど、その、私とじゃ、嫌、かな?」
グハッ! グハアッ!!! 同じ身長なはずなのに上目遣いと変わらないこの可憐な目、反則だ。
こんなに可愛いなら眼鏡外した方がいいのに。
いや、本当に反則だ。やばい。こんな目でお願いされたら、断れる訳が無い!!! ....負けた。
「い、嫌な訳ないじゃないよ! ただ、私は今覚えてないから」
「あ! そうだよね。ごめん! 嫌だったら本当にいいから。うん。」
だーかーら! その目反則だって!!!はあ、はあ....
「....嫌じゃないよ。一緒に入ろ」
「ホント! ありがとう順ちゃん!」
そして、時は来た。俺は人生で初めて、女子高生の生々しい裸を拝むことになった。
ヤバい....何か....ヤバいしか言えない。
「はあ、こうやって一緒にお風呂に入るの久しぶりだねー。でも、それにしても....」
体を洗っている俺の体を、先に湯船に浸かった梨乃がまじまじと見る
「順子ちゃん。凄い成長してるよね。む、胸とか。」
ああ、俺の胸じゃないからなんとも言えないけど、そういうの気にする年頃だよな。
「むー....私ももっと大きかったらなー」
「梨乃も結構あるじゃん。あと、形も結構綺麗だし。私は逆に良いと思うけどなー」
ううっ、まさかこの俺が女子高生の胸の品評と慰めをすることになるとは....でも、言葉に嘘はない。せっかくの機会ということで、記憶にはしっかりと刻ませて頂いたからな。
「ありがとっ。順ちゃんは優しいね。うーん。そんなもんかなー....あ、あああああ!!!」
「うん? 一体どうしたの....お、おおっ」
ニュっ
「いやー探しましたよ。まさかこんな所にいるなんて、あれ、そちらの方は」
「いやああああああああぁぁ!!!!!!!!!」
「どわあああああああぁぁぁ!!!!!!!!!」
あ、あさ......
朝くらあああああぁーーーーーーーー!!!!!!
Jの響きが個人的に好きなのですが、僕だけでしょうか?
神田順子の意識はまだ出てきませんが、彼女の生き様を辿る以上、主人公格、いや、彼女はストーリーそのものとも言えますねー。
急に思いついたこの話ですが、続けたい気持ちが強く感じさせてくれるので、我ながらこの話に助かっています笑